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アディヤートマ・ラーマーヤナ(47)「ハヌマーン、海を渡る」

美の巻

第一章 ハヌマーン、海を渡る

◎ハヌマーンの飛躍

 水棲生物が群がる海を百ヨージャナ跳び越えられるように、風の子ハヌマーンは、至高者そのものであられるラーマを心に瞑想し、高揚したムードで次のように言った。

「ああ、御身ら、猿の同志たちよ! 御身らは私がラーマ様によって撃たれた不落の矢の如く、空を跳ぶのを見ていたまえ。私は即刻、シーター様の居場所を突き止め、使命を果たした後、ラーマ様のもとへ帰還するでありましょう。
 死ぬときに一回だけその御名を唱えることによって、その他の方法では渡り難き輪廻の海を渡り、彼の神聖なる境地を得られるところの彼――その御方、ラーマ様の御名が刻まれた指輪を私は持っていきます。ならばこの小さき海など、私にとって何とちっぽけなものでありましょうか。あの御方を心に瞑想して、私は楽々とこの大海を跳び越えましょう。」

 こう言うとハヌマーンは、腕を広げ、尾を立て、首を真っ直ぐにして、足を縮め、上方を見上げると、風の速さで南方に向かって跳んでいったのだった。

◎スラサの物語

 ハヌマーンが空を飛んでいると、空からそれを興味津々で見守っていたデーヴァたちが、この猿を試そうと思い、このように話し合った。

「この風と同等の優れた能力を持つ勇敢なる猿は、ランカーに向かって疾走している。しかしわれわれは、彼がランカーに到着できるほどの力があるか否かを知らない。」

 このように考えると、そのデーヴァたちの中の長は、蛇の母スラサにこのように言った。

「あの偉大なる猿のもとへ行き、何か障害を創り出しなさい。そのようにして彼の智慧と力を試し、すぐに戻ってくるのだ。」

 このように指示されると、彼女はすぐにハヌマーンの行く道を妨害する使命に取り掛かった。
 彼女は行って、ハヌマーンの通り道を阻止して彼にこう言った。
 
「おお、賢者よ! 私の口の中に即刻入られよ。この空腹を満たす食い物として、神々が汝を私にお与えくださったのだ。」

 そこでハヌマーンは彼女にこう言った。

「おお、母よ! 私はラーマ様の命により、シーター様の居場所を突き止めに向かっております。彼女を見つけたら私は即刻帰還し、彼女のご様子についてラーマ様に報告した後、あなたの御口に入らせていただきましょう。さあ、道を開けたまえ。御身、スラサ様に礼拝し奉ります。」

 これに対して、スラサはこう答えた。

「私はたいそう腹が空いておる。ゆえに、私の口の中に入ってから行きなさい。さもなくば、私は汝をぺろりと平らげて差し上げよう。」

 彼女がそう言うや否や、ハヌマーンは彼女にこう答えた。

「ならば、すぐにその御口を開けたまえ。その中に即刻お入りいたしましょう。」

 そう言うと、ハヌマーンは彼女の前で、一ヨージャナの大きさまで巨大化した。
 そのハヌマーンを見るや、スラサは口を五ヨージャナ開き、ハヌマーンはその大きさの二倍、姿を巨大化させた。
 そしてスラサは、口を二十ヨージャナ開き、ハヌマーンは三十ヨージャナまで巨大化した。
 さらにスラサは、口を五十ヨージャナまで開いた。そこでハヌマーンはただちに身体を親指ほどの大きさにまで小さくし、彼女の口に入って、出ると、彼女にこのように言った。

「あなたのお望みのように、私はあなたの御口に入って、出ましたよ。あなたに礼拝し奉ります、ああ、母よ。」

 面前にハヌマーンを見ながら、彼のそれらの言葉を聞くと、スラサは彼にこう言った。

「おお、汝、智者の中で最も賢き者よ! さあ、進まれよ、ラーマに授けられし使命を果たすのです。私は汝の強さを試すために、デーヴァたちによってここに遣わされた。汝はシーターを見つけ、それをラーマに伝えるであろう。」

 そう言うと、彼女は天の住処へと帰っていった。そして風神の子ハヌマーンは、ガルーダのような気分で、海を渡っていったのだった。

◎マイナカの物語

 次に、海の神が、金や貴石の巨大な鉱山であるマイナカ山にこう言った。

「風神の子である勇士ハヌマーンが、ラーマ様の目的を果たすために海を渡っておる。お前は彼のもとへ赴き、何か奉仕をして差し上げなさい。私は、サーガル王のご子息方が私(海)の領域を拡大させてくださったゆえ、サーガラという名を授けられた。ダシャラタ様のご子息、気高き主ラーマ様はサーガル王の一族にお生まれになった御方である。
 今その偉大なる猿が、ラーマ様の何かしらの目的成就のための使命を帯びておられる。
 そなたは、すぐに海面に出てきたまえ。ハヌマーンをしばらくそこで休ませてから、行かせてあげなさい。」

 途方もなく大きなその山は、その提案に同意し、水面から姿を現した。
 多くの貴石が眠る数々の山の頂のさらに上方にそびえ立つその山は、人間の姿で現れ、ハヌマーンにこう言った。

「おお、気高き猿よ! われはマイナカ山と申す。御身にしばしの休息を提供しようと、海神によって遣わされたのである。どうか、われの上に飛び乗りたまえ。 われに生えている美味な果物で空腹を満たしてしばらく休んだ後、御身はさらに楽々と進んで行けばよろしかろう。」

 このように賢明に語った彼に対して、ハヌマーンは次のように答えた。

「ラーマ様の使命を遂行している私に、どうして食べ物が必要でありましょうか? どうして休憩が必要でありましょうか? 私の第一に為すべきことは、できるだけ速く前へと進むことであります。」

 こう言うと、彼は手で山頂に触れ、ランカーへと飛んでいったのだった。

◎シンヒカーの物語

 その後、彼はそこから少し飛んでいくと、水中で待ち構えて、通りかかる生き物の影を捕える能力を持つシンヒカーという獰猛な悪魔にとらえられた。
 彼女に捕えられるや、偉大なる武勇を持つハヌマーンはこう考えた。

「一体誰が、あるいは何が、私のゆく手を拒むのであるか? 前方には何も見当たらない。なんと謎めいていることか!」

 心の中でこのように考えると、ハヌマーンは下を見下ろした。
 そこで彼は、巨大で恐ろしいシンヒカーの姿を見た。ただちに彼は、怒りに燃えて海面へと急降下していき、その悪魔に蹴りを食らわせて殺戮したのであった。
 その後、ハヌマーンは再び空へ舞い上がると、南方へと向かっていった。すぐに、多くの果実が実る木々が茂り、至る所が花の華麗に咲き乱れる蔓で覆われ、さまざまな種類の鳥や獣の住まう南方の海岸が見えてきた。そしてまた、頂上にランカーの都を携えたトリクータ山を見つけた。そのランカーは、何重もの高い城壁に囲まれ、高価な塀で区切られていた。そして彼は、どうやってこのように堅く守られた都に入るかということを考え始めた。
 彼はこのように考えた。

「夜に、身体を極小にし、ラーヴァナによって守護されしランカーに侵入しよう。」

 そう決めると、日が暮れるまでそこで待機し、それからランカーへと侵入していったのであった。

◎ランカーシュリーとの対決

 身体を極小にして、ハヌマーンは、獰猛な女悪魔の姿をして都を守護するランカー・ラクシュミーが番をする門を通ってランカーへと入っていった、都に入ってくるハヌマーンを見つけると、彼女はこのように言って彼に食ってかかった。

「夜に私を無視して、猿の姿で盗人のようにランカーに入ろうとしているお前は誰だ? お教え願う、ここに何の用だ?」

 そう言うと、怒りで眼を真っ赤にして、彼女はハヌマーンに蹴りを食らわせた。
 ハヌマーンは、彼女を取りに足らない敵であるとしてあしらい、左拳で彼女を殴り飛ばした。一瞬にして、彼女は大量の血を吐きながら地面に倒れた。
 そしてランカー・ラクシュミーはすぐに立ち上がり、力強きハヌマーンにこう言った。

「おお、ハヌマーンよ! お入りください。幸運はあなたと共にあるでしょう。おお、非の打ちどころなき者よ! ランカーはすでにあなたの手に落ちております。
 昔、ブラフマー神が私にこう仰いました。

『この時のサイクルの二十八番目のトゥレータ・ユガにおいて、永遠なる実在者ナーラーヤナが、ダシャラタ王の子として降誕され、彼のヨーガ・マーヤーはジャナカの王家にシーターとして化身されるだろう。これは、地球から重荷を取り除くため、私が主に祈りをささげた結果なのである。ラーマはシーターとラクシュマナと共に、大いなるダンダカの森に来て住まうことであろう。そしてラーヴァナがマハーマーヤーそのものであられるシーターを誘拐するのである。
 その後に、ラーマは猿の王スグリーヴァと同盟を結び、彼が猿の部下たちにシーターの居場所を見つけ出すよう命じるであろう。
 彼らの中の一匹の猿が夜にお前のところへやって来る。お前は彼に戦いを挑み、彼の拳で打たれるであろう。
 お前が彼の殴打による痛みで苦しむとき、ラーヴァナの終わりが間近に迫っってきたのだと確信しなさい。

 ゆえに、私はすでにランカーはあなたの手に落ちたと考えたのです、おお、賢者よ! あなたはこの地のすべてを征服するでありましょう。ラーヴァナ様の女性街区に娯楽と休養のための林があり、その中央に、アショーカという非常に珍しい木の林があります。その中心にシンサパという巨木があり、そこでジャナカのご息女シーター様は、恐ろしい女悪魔たちに厳しく警護されながら監禁されております。彼女に会った後、あなたすぐに帰還して、その知らせをラーマ様に伝えるのです。
 長い間、私は人を輪廻の束縛から解放してくださるラーマ様への思いを心に抱いてきました。今日私は、非常に得難いあの御方の帰依者との交わりを得ることができて、真に幸せです。どうか、主ラーマ様が私の心の中に住まわんことを。」

 風神の子ハヌマーンが大海を渡ったとき、ラーヴァナとシーターは左眼と左腕が振動した。一方、感覚を超越したラーマは、右眼と左腕が振動したのであった。

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