アディヤートマ・ラーマーヤナ(10)「パラシュラーマの打破」
第七章 パラシュラーマの打破
◎パラシュラーマとの対立
ラーマ一行がミティラーから三ヨージャナ進むと、ダシャラタ王は心に恐怖を引き起こすようなさまざまな予兆を見て驚いた。
グル・ヴァシシュタに礼拝し、彼は言った。
「尊者様よ! 悪い予兆が四方八方に見られるのはどうしてでしょうか?」
ヴァシシュタは彼に対してこう答えた。
「ある恐ろしい出来事が起こるであろうことを示す兆候であるのは間違いないでしょう。しかし、それらの影響が束の間であるという旨の兆候も同時にあります。わかりませぬか? 吉兆なる動物たちがあなたの周りを回っております。」
彼らがこのように話していると、ものすごい風が吹き始めた。その砂埃は一切の視界を遮断した。さらに少し進むと、彼らは、幾多の太陽、あるいは煌めく光線のように光り輝く光の塊に出くわした。ダシャラタがそれに近づくと、その中に、ジャマダーグニの息子であり、クシャトリヤの恐怖であり、カルタヴィーリヤを滅ぼした者である、荘厳なるパラシュラーマの姿を見たのだ。背が高く、雨雲のように青き顔をした彼は、もじゃもじゃの巻き毛と、恐ろしい弓と戦闘用の斧からなる武器を持ち、死神の化身のように見えたのだった。
彼と直面して、ダシャラタ王は強い恐怖を感じ、偉大なる人を歓迎する上での慣習となっている供養をすることさえも忘れ、パラシュラーマに懇願して、こう言った。
「われわれをお助けください、力強き者よ! われわれをお助けください!
どうか、われわれの息子の命だけは勘弁してください。」
それらの言葉をもって、ダシャラタ王は彼にひれ伏した。しかしパラシュラーマは軽蔑するように彼をきっぱりとはねつけ、シュリ―・ラーマの方を向き、怒りで身体を身震いさせながら、次のような脅迫的な言葉を発した。
「若造が。クシャトリヤのくずめが! お前は私の名を有しながら、厚かましくも地球を動き回っている。もしお前が真のクシャトリヤならば、私の決闘の挑戦を受けよ。古くてもろい弓を破壊しただけで、お前は自分の武勇について高慢になって生きている。もしお前がこのわたしの所有するヴィシュヌの弓に弦を張ることができるならば、私はお前を、ラグ族に生まれた者であり、戦うに値する者として見なそう。お前が負けたら、私はお前たち全員を殺してやる。私を、クシャトリヤを全滅させたジャマダーグニの息子のラーマであると知れ。」
彼がこのような威嚇的な言葉を乱暴に発すると、大地が激しく振動した。
分別を失わせるような暗闇が、皆の眼に押し寄せた。ダシャラタの勇敢なる息子ラーマは、ブリグ族のラーマを睨みつけ、彼の手からその弓をもぎとってしまった。偉大なる武勇を有する彼は、易々とそれに弦を張り、彼が矢筒からとった矢をそれにしっかりと固定させ、ブリグ族の子孫にこのように言った。
「おお、偉大なるブラーフマナよ! 私の言うことに耳を傾けたまえ。わが矢の標的を示されよ。なぜならば、私によって放たれた矢は、決して無駄になることはないのである。
わが命令に即刻答えられよ。私がこの矢で御身の一切のこの世における未来を破壊して差し上げようか? 天罰は、非常に厳しく御身に降りかかるであろう。そうすれば、御身はここに存在する余地はなく、またこれからも存在する余地がなくなるであろう。」
シュリ―・ラーマがこのように要求すると、ブリグ族のラーマの顔は、屈辱感から歪んだ。しかし突然、過去の出来事の思い出が彼の心の中にひらめき、彼は以下のように話し始めた。
◎パラシュラーマの賛美
「おお、ラーマよ、偉大なる勇者よ! 私は今、あなたが、宇宙を創造し、維持し、破壊される至高主マハーヴィシュヌであると理解しました。
すべての者のハートに住まう永遠者よ。私は少年時代、チャクラティルタという聖地で、苦行によってマハーヴィシュヌを礼拝しようとしていました。来る日も来る日も苦行生活と断固とした精神集中を続けることで、私はすべての者の本質として彼らの中に内在する者ナーラーヤナを懐柔したのです。
それから、おお、ラグ族の偉大なる王子よ、蓮華のような御顔を持った至高なる神マハーヴィシュヌは、法螺貝、円盤、矛、そして他の象徴を御手に誇らしく掲げながら私の前に御現われになり、このようにおっしゃったのです。
『おお、聖なる者よ! さあ、その苦行をやめなさい。それらは達成されたのだ。お前は、私の聖なる力の一部を授かった。その功徳によって、お前はお前の父を殺戮したヘーハヤ王朝のカルタヴィーリヤを破滅させ、お前の苦行の目的を果たすことができるであろう。その後、お前は二十一回クシャトリヤを滅ぼし、その贈り物として、お前が彼らから勝ち取った全大地をカーシャパに捧げるであろう。永遠者である私は、トレータ・ユガにダシャラタの子として、地球に降誕するだろう。お前はそこで私と出会い、お前はその時に、私がお前に与えた力を私に託すのだ。その後、お前は苦行を為しながら、ブラフマーの一日の終わりまで、地球にとどまるだろう。』
主は、私にこのように命令された後、消えていきました。私は自分に委ねられた使命を完了しました。
おお、ラーマよ! あなたは真にあのマハーヴィシュヌであられる。ブラフマーに懇願され、あなたは御自ら降誕されました。あなたは今、かつて私に与えられたあの神聖なる御力を取り戻されたのです。
わが人生は全く実りあるものとなりました。私は今、あなたの記憶の内に入りました。あなたに到達することは、ブラフマー神や他の神々にとっても困難なのです。聖典には、あなたはこの宇宙の母体プラクリティを超越しておると宣言されております。誕生、成長などの六つの無智の状態は、あなたにおいては存在しません。なぜならば、あなたは永遠に、完全であり、不変であり、(無智なる存在があなたに帰属しているところの付属物のみの特質である)一切の動きをお持ちでありません。
ちょうど水に浮かぶ泡や、火から立ち上る煙のように、客観的世界のすべては、あなたの中に座と支えを持ち、あなたという客体から離れた独立した存在を持たないあなたのマーヤーによって、あなたの中に投影されています。
ジーヴァがマーヤーの中に覆い隠されている限り、それらがあなたを知ることはありません。個々において、マーヤーはヴィディヤー(明智)を妨害するアヴィディヤー(無明)として働きます。ヴィディヤーに対立される確かな実体として経験されるこのアヴィディヤー(無明)は、識別智(アヴィチャーリタシッダ)が不在である存在であります。
ジーヴァと呼ばれるものは、無明(アヴィディヤー)によって生成された身体と心の観念的集合体の中の純粋意識(チッチャクティ)の力の反映なのです。
心身という観念的集合体、プラーナ、ブッディなどに関する『私という感覚』を感じる限り、非常に長い間、人は行為者性と経験を喜ぶ性質、幸福と苦悩の経験に支配されます。
真我そのものには輪廻との関わりはありません。そしてまた、意識や感覚は、それそのもののの中にブッディを持っていません。これら二つ、真我とブッディが、識別的な思慮の欠如から生じる架空の識別によって一つになるとき、われわれはジーヴァ(個別化され、顕現したアートマン)というその観念的実在を持つのです。
非感覚的な心身の観念は、アートマンである純粋なる感覚を伴った識別によって、感覚性を見なします。そして、同様に純粋なる感覚性であるアートマンは、非感覚的な心身の観念を伴った認識によって、非感覚性を見なすのです。それはまるで、正反対の性質を持つ水(雲)と火が、光り輝く灼熱の稲妻のような知覚対象に統一化されるところの稲妻という現象の中の火と水の性質の相補う重ね合わせのようです。
人は、あなたの熱心な帰依者との繋がりを得るまで、上記に述べた無智の状態によってもたらされる輪廻の生との結びつきから生じる膨大なその苦しみの身体から決して解放されないでありましょう。
人が、聖者との繋がりによって育てられた信仰心をもってあなたに礼拝するならば、マーヤー(無智)は退き、弱毒化します。
この心の純粋性の境地が達成されれば、渇仰を抱く者は、あなたの悟りから生まれる叡智を与えられた真のグルを得るでしょう。そのような師を通じて、聖典の言葉の真の意味である叡智を得て、彼はあなたの恩寵によって解脱に至るのです。
したがって、あなたへの信仰を持たない者たちにとっては、無数の宇宙のサイクルの中でさえも、悟りと解脱を得るほんのわずかなチャンスもないのです。彼はこの人生においてでさえも、幸福を得ることはありません。
それゆえに、来生も再来生も、私があなたへの信仰と、あなたの帰依者と繋がる好機を持って生まれることができるよう、私を祝福してください。なぜならばそれが、無智から解放されるただ一つの手段だからです。
あなたへの真の信仰心を持ち、生き方や言葉によって信仰の道を伝播する者たちは、全世界を浄化するのです。ならば、彼らの子孫を含めた彼らの知人と一族の人生の欠点などを補う効果について、何を話すことがありましょうか!
あなたに礼拝し奉ります。おお、宇宙の主よ! 渇仰する者の信仰心を生じさせ、増大させる御方であるあなたに礼拝し奉ります! 慈愛の権化であり、終わりなき実在であられるあなたに礼拝し奉ります! あなたに、ラーマチャンドラに、私の礼拝を捧げ奉ります!
おお、主よ! 私が高い世界に到達するために為したすべての称賛に値する行為が、あなたの矢の標的となりますように。礼拝をもって、私はあなたにそれらを捧げます。おお、ラーマよ!」
◎ラーマがパラシュラーマに恩寵をお与えになる
慈愛の権化であられるラーマは、寛大に、ブリグ族のラーマにこう仰った。
「私はあなたをとても嬉しく思う。おお、聖なる者よ。あなたが欲するものすべてを、私は一切のためらいもなく授けよう。」
そして高く高揚したムードで、ブリグ族のラーマは、シュリ―・ラーマにこう言った。
「おお、ラーマよ! 悪魔マドゥを滅ぼし者よ! もし私に慈悲を示されるならば、どうか、あなたへの堅固で不断の信仰心を持った帰依者との交わりを私にお与えください。
また同様に、あなたが、信仰心のない人でさえも、彼がこの賛美を定期的に唱え、学ぶならば、あなたの愛と叡智を開発することができるよう、喜んで承諾してくださいますように! そして、さらに、彼が死の時にあなたを思うという祝福を受けることができますように!」
ラグ族の子孫ラーマは、これらの彼の祈りをお聞き入れになられた。それからブリグ族のラーマは、シュリ―・ラーマに礼拝し、彼の周りを回ると、彼の許しを得て、マヘーンドラ山へと旅立ったのであった。
◎アヨーディヤーへの帰還
歓喜で溢れかえったハートで、ダシャラタ王は、あたかもラーマが彼を死の淵から救い出したかのように、ラーマを何度も何度も抱擁し、そして彼の湧き上がる喜びは、彼の眼から涙として溢れたのだった。
それから、高揚し、平穏になった心で、ダシャラタ王はアヨーディヤーへの旅を再開した。アヨーディヤーに到着し、ラーマ、ラクシュマナ、バラタ、そしてシャトルグナは、それぞれの宮殿に、それぞれの妻と共に幸せに暮らしたのだった。両親と共に楽しみながら、ラーマはアヨーディヤーで、シーターと共に、マハーヴィシュヌがヴァイクンタでシュリ―デーヴィーと共に過ごすように、天上の至福の中で日々を過ごしたのだった。
そんなある日、カイケーイーの兄弟であり、バラタの叔父であるユダジットが、バラタを彼の王国に訪問させようと、アヨーディヤーにやって来た。愛情あふれ、勇敢なるダシャラタ王は、ユダジットを一切の敬意を持って受け入れ、バラタをシャトルグナと共に、彼のもとへ行くことを許可した。
ラーマとシーターと共にいるカウサリヤーは、まるで神々の母であるアディティーが彼女の息子のインドラと彼の妻のインドラーニーと共にいるように、光り輝いていたのであった。
ラーマは、彼の幾多の美徳のために、神々の中で最も際立っている。彼の名声は一切の世界で歌われているのだ。彼は全宇宙において、ありのままに歓喜の完全性の化身であられる。彼の栄光は永遠に続き、彼は朽ちることなき存在である。マーヤーという無智を生み出すフィルムを持つことなく、彼は不変なる者であり、一切衆生の主なのだ。けれどもシュリ―・ラーマは、まるで無智なる生命の法に従っている人間であるかのように、シーターと共にアヨーディヤーに住んでいらしたのだ。
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