ご覧にならないでください
ラードゥはアヘン中毒になっていた。ホーリーマザーご自身の健康もすぐれず、ときどき熱が出た。彼女はラードゥのアヘンをやめさせようとされたが、ラードゥは言うことを聞かなかった。
その朝、ホーリーマザーは野菜を刻んでおられた。ラードゥがやって来てアヘンを求めた。マザーはそのことを知って、
「ラードゥ、どうして起き上がらないの? あなたにはほとほと愛想が尽きてしまったわ。あなたのために私は全く修行できないでいるのよ。それに、どこにそんなお金があるっていうの?」
とおっしゃった。ラードゥはそのちょっとした小言にさえ腹を立て、目の前にあった柳細工の籠から大きなナスを取り出して、それをマザーの背中に力いっぱい投げつけた。その鈍い音に気付いて私(スワミ・イシャナーナンダ)が振り向くと、ホーリーマザーは痛みに背中をゆがめて立ち上がろうとしておられた。殴られた箇所はみるみる腫れあがった。
ホーリーマザーは師へ向かって、
「おお、主よ。彼女がしたことをご覧にならないでください。彼女は知能が低いのですから」
とお祈りになった。
彼女は自分のつま先に触った手でラードゥの額に触れて、
「ラーディ、師は私のこの体に、ただの一度でさえ荒々しい言葉を投げられたことはなかったのよ。それなのに、あなたはこんなに問題ばかり起こして! あなたにとって私がどういう存在か、どうして理解できないのでしょう。私が我慢ばかりしているからいけないのかしら。私を誰だと思っているの」
とおっしゃった。ラードゥは泣き出した。
(「ホーリーマザーの福音」より)
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母なる女神の化身、ホーリーマザーとあがめられていた自分に対して物を投げつけてケガをさせるという大変な悪業をなしたラードゥのことを、「彼女の罪をお許しください」ではなくて「彼女がしたことをご覧にならないでください」と主に祈ったことに感動する。
すべてを許し、愛し、保護し、包み込む、慈愛の心。
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