お釈迦様の旧友
あるとき、お釈迦様が多くの弟子たちとともに道を歩いていたとき、お釈迦様は不意に道から離れ、ある場所で微笑みました。
それを見た弟子のアーナンダは、お釈迦様に聞きました。
「ブッダはなぜ微笑まれたのでしょうか?」
それに答えてお釈迦様は、こう言いました。
「遥か昔、この地にヴェーハリンガという名の町があり、カッサパ如来の僧園があった。そしてカッサパ如来はまさにこの場所で、弟子たちに教えを説いていたのである。」
こう言ってお釈迦様は、そのときのことを話し始めました。
カッサパ如来というのは、お釈迦様のすぐ前の時代にこの地球に現われた如来です。
このカッサパ如来の在家の第一の信者だった、ある陶工がいました。彼はヴェーハリンガで壷を作っていました。
この陶工には、ジョーティパーラ(光の守護者)という名の親友がいました。陶工の身分は低く、ジョーティパーラは高貴な身分でしたが、二人は身分を越えて親友でした。しかしジョーティパーラは、カッサパ如来に対する信仰心を全く持っていませんでした。
そこで陶工はジョーティパーラに、カッサパ如来に会いに行こうと何度も誘うのですが、ジョーティパーラは聞く耳を持ちませんでした。何度誘ってもジョーティパーラは、カッサパ如来の悪口を言って、行くのを拒みました。すると陶工は、なんとジョーティパーラの髪の毛をつかんで、連れて行こうとしたのです。
ジョーティパーラは驚き、こう思いました。
「これはただ事ではない。親友とはいえ、身分の違うこの陶工が、私の髪の毛をつかんでも連れて行こうとするとは。これは何かあるのかもしれない。」
そしてついにジョーティパーラは、陶工につれられ、カッサパ如来に会いに行きました。そしてカッサパ如来は、ジョーティパーラに様々な真理の話をしました。
もともと素養があったジョーティパーラは、カッサパ如来の話を聞いて、感動し、真理に目覚め、歓喜に打ち震えました。
ジョーティパーラは、陶工に言いました。
「君は、こんなすばらしい真理を聞いたにかかわらず、出家してカッサパ如来の弟子になろうとは思わないのか?」
陶工は答えました。
「私は年老いた盲目の父母を養わなければいけないので、出家することはできないのだ。だから在家信者として、帰依と奉仕を行なっているんだよ」
「それでは、私は出家しよう。」
こうしてジョーティパーラは、身分や財産をすべて捨て、カッサパ如来の出家の直弟子となりました。
このジョーティパーラは、懸命に修行を行ない、その後も何度も生まれ変わって修行を続け、ついには如来となって、釈迦牟尼如来として、この地球に登場しました。
そう、このときのジョーティパーラこそ、お釈迦様の過去世の姿だったのです。
・・・・・
また別の折、ある神が、お釈迦様に話しかけてきました。
原始仏典には頻繁に神(天人)が登場し、お釈迦様と会話を交わす場面があります。
その神は、こう言いました。
「七人の修行僧が解脱して、人間の身体を捨てて、アヴィハという天に生まれました。
彼らは貪りと怒りをすっかり滅尽して、世間における執着を乗り越えたのです。」
お釈迦様は、こう言いました。
「彼らは、誰の教えを奉じて、迷いの存在の束縛を断ち切ったのですか?」
神は、お釈迦様に答えました。
「あなた以外にはいません。あなたの教え以外には何もありません。
彼らはあなたの教えによって、迷いの存在の束縛を断ち切ったのです。」
お釈迦様は、神にまた聞きました。
「知りがたく、悟りがたき深遠な言葉を、あなたは語りました。
ところであなたは、誰の教えを奉じて、このようなことを語るのですか?」
神は答えました。
「その昔、私は陶工でした。ヴェーハリンガという町で、壷を作っていました。母と父に仕え、カッサパ如来の信者でありました。
そのとき私は、淫欲から遠ざかり、清らかな行いを守り、欲を貪ることがありませんでした。
私はあなたの同郷の者、あなたの親友でした。」
お釈迦様は言いました。
「確かにあなたの語るとおりでした。
あなたは以前は陶工であり、ヴェーハリンガで壷を作っていましたね。
母と父に仕え、カッサパ如来の信者でしたね。
淫欲から遠ざかり、清らかな行いを守り、欲を貪ることがありませんでしたね。
そして私とあなたは同郷の者であって、親友でした。」
このようにしてお釈迦様とその神は、旧交を温めたのでした。
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