「解説『スートラ・サムッチャヤ』」第五回(9)
【本文】
また、マンジュシュリーヴィクリーダには、次のように説かれている。
「精進こそが魔事の原因である。なぜなら、精進が働くとき、魔事は妨害する機会をうかがってやってくるからである。
では、精進しない者に対しては、魔はどんな仕業を行なうのか?――精進しないこと自体が魔事である。」
はい。ここはとても面白いっていうか美しい言葉だね。つまり、まず「精進こそが魔事の原因である」と書いてある。これは分かるよね、つまり精進。つまり皆さんが菩薩道や、あるいはバクティヨーガや、あるいは解脱の道に頑張って努力すると。そうすると当然、この世っていうのは二元の世界なんで、皆さんの中で光の世界、光のエネルギーが強くなると、闇の魔的なエネルギーも強くなる。で、あるいは別の言い方をすると、さっきも言ったように皆さんが修行を進めるっていうことは、自分の中に隠れていたけがれを乗り越えるっていうことだから。その乗り越えるときに当然その魔の働きがやってきて、それをわれわれは乗り越えない限りは成長しないんだね。だから精進することによって魔が働き出す。この原則っていうか、法則があるわけですね。しかし、じゃあ精進しない者にはどうなんですかと。精進によって魔がやってくるんだったら、精進しない者には魔は何もしないんですかと。いや、精進しないことは、それはそれそのものが魔だと。ね(笑)。
これは本当に面白い話ですね。つまり精進しない人がここにいるとしたら、もうもともとその人は魔に取り込まれていると。だから精進はしなきゃいけない。
だから、精進して魔がやってくる――つまり、だから逆の言い方すれば、修行と魔の働きはセットだっていうことです。だから修行すればするほど魔の働きは強くなる。これはまさに世の習いであり、修行者にとっての習いであり、当たり前のことなんだって考えてください。だからそれは覚悟を持って挑まなきゃいけない。で、次から次へと来る魔を打ち破り打ち倒し、そして乗り越え、成長していくんだね。これがだからここに書かれていることですね。
だから逆にいうと、まずもちろんベースとしては一生懸命精進しなきゃいけない。で、精進してきて魔がやってきたら、それはもう半分喜ばなきゃいけない。「ああ、わたしがこんな修行してきたから、やっとね、こういう妨害がやってきた」と。「素晴らしい」と。「さあ、わたしはこれに堂々と戦ってね、打ちのめそう」と。「乗り越えよう」と。そういう気持ちが大事だね。
逆に、ちょっと厳しいこと言うと、「なんか、魔、やってこないんです」と、まだ――これは精進が足りないと考えてください。だから、「ああ、平穏で、わたしは素晴らしい人生、修行人生歩んでるなあ、おれは徳があるのかな」じゃなくて、足りないんだと。精進がと。ね。そういう厳しい心の方がいいね。「ああ、おれは、前はなんかいろいろ苦しいことがあったけど、最近一年ぐらいずーっと平穏なんだよな。修行進んでるからかな」じゃなくて、努力が足りないと。ね。つまり、まだ魔がやってきてくれるほど精進してないと。「え! まだ駄目なんですか?」と。まだ魔のお眼鏡にかなってないっていうか(笑)。まだ魔がこっちを危険視するほどでもないと。ね。
だからちょっと物語的にいえば、魔が危険視するわけですよ。魔がね、「あ、あいつ! あの修行者のあいつは頑張ってんな」と。例えばUさんが現世を捨てて修行し出したと。「やべえ、あいつ頑張りだした」と。「このままでは、この魔の世界から一人の修行者が脱してしまう!」と。よって、例えばUさんだったらUさんにガーッて魔が攻撃すると。これはだからある意味――もちろんそれは乗り越えなきゃいけないんだけど、修行者にとっては勲章みたいなものだね。だから逆に言うと「あれ? あいつ、修行する修行するとか言ってたけど、全然なんか頑張ってねえじゃん」と。「まあ、相手にするほどでもねえか」と。「放っとけばいいや」と。ね。こういうふうに魔から見られてしまうとしたら、それは全然もう修行者としては失格なわけだね。
だから本当に、まさにいつも言うようにヴィヴェーカーナンダとかはカルマヨーガの代表的な人だけども、ああいう感じで、「人生というのは戦いである」と。つまり、徹底的に自分と戦い――あるいは法を広めるような、もし環境にあるならば、法を広めるために戦い、当然その中で妨害や――ある場合は社会的妨害だったり、ある場合は自分の精神的な問題だったりするわけだけど――いろんな妨害や障害や魔がやってくるのは当たり前のことであると。だって戦ってるんだから。だからそれを心構えとして最初に持っといたらいいね。そうしたならば、最初の話に戻るけども、決してわれわれは、最初のあの羊車行の菩薩のような、すぐにヘナヘナって後退してしまうような状態にはならないはずなんだね。普段からそういった心構えを持っていたらね。はい。