「解説『スートラ・サムッチャヤ』」第二回(16)
はい、そして「一切の後悔を捨てる力」。これは二つ意味があります。一つは、いわゆる日本のことわざでも言うように「後悔先に立たず」っていうように、つまり後悔するようなことはしないと。
わたし昔――昔って中学生とかのときね。小説の宮本武蔵が好きで、よく読んでたんだけど。今、漫画で流行ってるみたいだけど。
そうだな――わたしね、ちょっと話長くなるからあんまり言わないけども、わたしヨーガ修行始めたひとつの一因は、宮本武蔵にあるといってもいい(笑)。ちょっと簡単に言うとね、わたし宮本武蔵読んですごく感動して、わたしすぐに投影しちゃうんだね。没入しちゃって、なんか武蔵になった気になって、で、武蔵がさ、ちょっと忘れちゃったけど、ある場面で心が道に迷ってね、で、山の中を崖とかいろんなのを登っていって、山の上とかに行ってね、神に祈る場面があります。ちょっと細かいのは忘れたけども。まあ、「われに百難を与えよ」みたいなね。「神よ、われに困難を与えたまえ」と。そういうその求道者的なシーンがあって。で、そういうのを見てとても感動して、何か武蔵になりきって、近くに一時間くらいで登れる山があるんだけど――そこは普通はね、山道があるんだけど、わざわざわたし、道じゃない山の中を、「くっ……これが修行だ」とか言って、こう登っていって、一番てっぺんに着いて、祈ったわけですね。「われに……」――まあ、そのときはわたしはヨーガとか知らなかったんだけど――「われに苦しみを与えたまえ」と。で、もうひとつ、「われに真理を与えたまえ」と。つまりまあ道を求めていたから、「真理を与えたまえ」ってこう願ったんだね。
で、そのすぐあとに、この願いは実は叶ったんだね。それはどういう感じで叶ったかっていうと、いきなりそのちょっとあとに、親が引っ越してね、仕事の関係で。で、転校したと。で、転校した先でいきなりみんなからいじめられたんです。それまでは、わたしはどっちかというと学校の人気者的な感じだったから、すごいその落差があったわけですね。いきなりその転校先で、もうみんなからバーッてすごいいじめにあった。同時にそのころにヨーガに出会ったと。だからわたしは「あの祈りが叶ったんだ」と思ったね。つまりその、「苦しみを与えてくれ」っていうのと、「真理を与えてくれ」どっちも叶ったわけだね。引っ越していじめられて、で、ヨーガに出会ったと(笑)。今考えるとすごい話だね。で、それは宮本武蔵読んでからだったから、宮本武蔵にすごく感謝しなきゃいけないね。
で、まあちょっとそれはいいとして、宮本武蔵を読んで、その宮本武蔵の言葉と言われている、いろんなその戒訓みたいなのがあって、そこにいい言葉がいっぱいあるんですね。ここでもいつも言っているような言葉もあってね。例えば「われ以外、みな我が師」とかね。「わたし以外の他人は、みんな我が師匠である」という言葉とか、あるいは――これは武蔵の言葉だったか、作者の言葉だったか忘れちゃったけど――「生涯一書生」とかね。生涯一書生っていうのは――書生っていうのは学生のことだけど。つまり「生涯、わたしは学ぶ人である」と。「わたしは生涯、学び続ける」と。「生涯、修行し続ける」っていうことですね。
で、その中のひとつの言葉として「われ、事において後悔せず」って言葉があるんだね。これもまあいろんな解釈があるけども、つまり後悔しない生き方をするってことです。つまり、悪いことやっちゃって「まあ、後悔しないか」っていうのじゃなくて、何かをやるときに「さあ、これをやって後悔しないか」、あるいは「やらないで後悔しないか」。「絶対あとで後悔しない、瞬間瞬間の生き方をするぞ」っていう真剣な心持ちで、瞬間瞬間を生きるんです。で、あとで絶対後悔しないと。後悔しないっていうのは失敗しないっていう意味じゃないよ。「絶対後悔しないぞ」っていう道でいったら、失敗しても後悔はないから。それくらいの真剣さで生きるっていうことですね。それがひとつの意味。
で、もうひとつの意味はそうじゃなくて、意味のない後悔はしないっていうこと。つまり反省はいいんだけども、例えば過去にやってしまった悪いことをいつまでもグダグダと「あんなことやらなきゃよかったな……」とか。これは悪い後悔だからね。こういうのはもちろんしてはいけない。すべてはカルマであって、もちろん過ぎ去ったことは、もう過ぎ去ったことであると。これからはもちろん、われわれは反省の材料として、正しい道を歩まなきゃいけないわけだけど、終わったことにグダグダ後悔しててもしょうがない。そういう意味もありますね。
はい、今日はまたなんていうかな……五項目だけで終わってしまった(笑)。
(一同笑)
今日は結構いくかなって思ってたけど、あまり進みませんでしたね。
はい、じゃあ最後に何か質問があったら質問聞いて終わりにしましょう。全体的に何か質問ある人いますか? 特にないかな?
じゃあ、なかったら終わりましょう。
(一同)ありがとうございました。
-
前の記事
スワミ・トゥリヤーナンダの書簡集(30) -
次の記事
ヴェーダーンタの実践(11)