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「菩提心」⑤

◎六つのパーラミター

 ブッダの子(菩薩)は、第一に、
 六つのパーラミターを、
 あらゆる面において、修行しなければなりません。

◎布施のパーラミター

 菩薩はまず、お金、食物、衣服、家、車、家畜などのような、
 有り余るほどの生活必需品を布施するでしょう。

 これより高度なことは、自分の息子や娘を布施すること、

 そして、自分の頭や目や身体などを布施することです。

 そのようにして、現世的および精神的な幸福が得られるのです。

 またそれによって、すべての愛著の心は、あなたによって克服されるでしょう。

◎戒のパーラミター

 戒の高度な実践を通して、あなたは自分自身を制御し、

 心の健全さ、内面的安らぎは見つかり、
 
 自他を利する道が見つかるでしょう。

 自己制御の戒、
 菩提の生き方にのっとった戒、
 そして衆生を救済する戒、
 ――これら三つの戒で、ブッダの子は絶え間なく修行するのです。

◎忍辱のパーラミター

 次にあなたは、三つの忍辱を理解しなければいけません。
 ――一つは、外的・内的な様々な苦痛を通じて、どのくらいの苦しみに巻き込まれるのかということを恐れないこと、
 一つは、慈悲の実践によって生じる苦しみを恐れないこと、
 そしてもう一つは、空の教えなどの究極の真理を恐れないことです。

 憎しみに等しい罪悪はなく、
 忍辱に等しい苦行はありません。

 したがって、様々な方法で、忍辱を成し遂げる努力をし、
 怒りの火を消すことに努めてください。
 
 自分の心一つが調御されれば、他のすべても調御されます。
 したがって、心の調御への正智を保つことに、厳しく努めてください。

 忍辱の善は、自分の悪しき心を徐々に覆っていき、
 そこに慈悲や慈愛のような価値あるものが育ちます。

 よって、謙虚に、喜びに満ち溢れて、敵に忍耐を見せつけましょう。
 あなたに害を与える者を、全智を与えてくれる師であると見て、感謝しましょう。

 あなたに害を与える者があったとしても、
 あなたが忍辱の心を持たなければ、それは全智への道にはならないでしょう。
 
 忍辱の修行に従事せず、その機会を逃すならば、
 あなたの中の悪しきカルマは、逆に増大してしまうでしょう。

 しかし、あなたが忍辱に励むならば、
 悪しきカルマの力は尽きていきます。
 よって、自らの心を調御することを厳しく努力してください。

 まだ来ていない事柄に対して、「こうなるのではないか」という心配をしないでください。
 もしそれが生じないとしたら、あなたの心配は全くの無駄になります。
 もしそれが避けられないとしたら、あなたが心配しようがしまいがそれはやってくるでしょう。
 したがって、無駄な心配の心を持つことなく、
 どんな状況にも耐えようという忍辱の覚悟を持つことに努めてください。

 もしあなたが悟りを得たならば、一切の相対的なものが実在しないことに気づくでしょう。
 幸と不幸、快と苦、善と悪、それらは空であり、存在しないのです。
 二つの相対的な概念を実在するものと考え、
 期待や心配に心を悩ませることは、無意味なのです。

◎精進のパーラミター

 次にあなたは、激しい精進に喜びを見出してください。

 この段階においては、善行の実践に疲れることはなくなり、
 あらゆる善は、雲のように、また香りの良い蓮華の花に集まる蜂のように集まります。

 その反対は、次の三つの怠惰です。
 ①悪しき行為に馴染むこと。
 ②怠惰から来る自己否定、卑屈さ。
 ③善に対して誤った理解をすること。
 
 これらはすべての悪の源であり、
 これらによって、素晴らしいものは消え、憎むべきものは育つでしょう。

 力強く精進に励む人は、すべての世界において称賛されるでしょう。
 力強く精進に励む人は、意志したことを達成するでしょう。
 力強く精進に励む人は、功徳を増大させるでしょう。
 力強く精進に励む人は、苦しみを乗り越えるでしょう。

 輪廻の世界の最高の善の事柄であろうと、
 輪廻を超える解脱の道の事柄であろうと、
 そこに精進がなければ、それはいつでも崩壊し、
 そこに精進があれば、それは永続するでしょう。

 よって、力強い精進に励んでください。
 そして、それらに耐えてください。

 不善であることを滅ぼすために、
 善であることを努力するために、
 あなたがブッダフッドに到達するまで、精進してください。
 あなたの熱意を絶対に緩めないでください。
 それによって、あなたの内面的資質は大きく大きく成長するでしょう。

◎瞑想のパーラミター

 瞑想における集中力を育むことを欲する人は、
 散漫さと落ち着きのなさを放棄しなければなりません。

 感覚的対象の喜びは秋の雲のようです。
 稲妻のように不安定で、とても気まぐれです。

 それらの楽しみはつかの間です。まるで幻の宮殿のようなものです。
 それらは絶対に信用できません。
 ――よってそれらを放棄してください
 そして早く、静かな森林に行ってください。

 現世的なものへの欲を少なくし、足ることを知り、満足してください。
 なぜなら、それらの欲を追い求めることは、次から次へと不満を生起させるからです。

 得たものを失うことを恐れ、また新しいものを追い求めるようになってしまいます。
 ――そのような心の状態は、飽くなき切望、貪欲を生みだし、
 それは悪趣へと導き、善趣への道を阻害します。

 
 ちょうど、肉体的外傷が無数の苦しみの原因となるように、
 同様に、十分過ぎる財産は、今まで以上の大きな心配事を作り出します。
 必要なものが少ないほど、幸福は増大します。
 所有物への悩みが減れば、そこには敵や泥棒への恐れはなくなるでしょう。
 義務が少なくなり、心を夢中にさせるものが少なくなったならば、
 いつも、現世的な欲はわずかにあるだけで、修行に集中できるでしょう。

 悪友と一緒にいることによって生じる悪は、はかり知れません。
 悪行は増え、さらなる不善への道を作るでしょう。
 善は減少し、争いや興奮は増えるでしょう。
 不満は増え、喜びは減るでしょう。
 そしてあなたは、多くの行為や多くの義務によってかき乱され、
 落ち着きのなさに取り巻かれます。
 ――よって、火、蛇、そして凶暴な獣のような、悪友と一緒にいることから脱出してください。

 あなたの心が安定するまで、
 世の中の様々なものはあなたを惑わしますので、
 人里離れた場所に、幸せにとどまってください。

 静謐な場所に行って、
 あなたの身体と心を、落ち着きのなさから解放してください。

 清らかな水、花、果物などであふれている森、
 岩の洞窟、石の家、
 ぶら下がった枝や木々の陰で飾られ、
 鳥や鹿などはたくさん跳ね回り、
 川の岸で、愛くるしい蜂は、花の周りをブンブンと飛んでいます。

 瞑想における集中力は、孤独の喜びの中で、簡単に増大するでしょう。
 
 喜びの中で、移り変わる四季は、無常の認識を与えます。

 夏、秋、冬、春に蓮華の池を訪れ、
 その変化を観察するよって、この世の儚さを悟ってください。

 あなたが火葬場に行き、骨が散在しているのを見、
 わたしの身体もまたこのようにバラバラになるのだろう、と考えることは、
 輪廻に関する執着という無価値な因の集積を、遠くに葬り去るでしょう。

 わたしの心が常に、争いや乱れた感情がなく、
 柔軟で幸福でありますように。
 そして永遠に平静でありますように。

 輪廻に対する不満の心を持ち、
 勝者によって称賛されるような林や森に行き、
 その安らぎの地で、足を組んで座ってください。

 あなた自身の心に徹底的に集中して、
 動きのない平静の状態に入ってください。

 そして、まだ未熟な近似のサマーディ、
 識別のサマーディ、
 そして真のサマーディを悟ってください。

 まだ未熟な近似のサマーディは、道にまだ入っていず、
 色界の四つのサマーディや、無色界の四つのサマーディにまだ移行していない人々のものです。
 
 識別のサマーディは、道に入った者のサマーディです。
 
 真のサマーディは、解脱した聖者のサマーディです。

 それらのサマーディに親しむことによって、
 現世的な感覚的対象に喜びを見出す心は、捨断されるでしょう。

 そして、われわれに本来備わっている純粋な意識、高度な智慧、真実の経験は明らかになり、
 正しいヴィジョンや超越的神通力も、現われるでしょう。

◎智慧のパーラミター

 智慧(悟り)には、次の三つの段階があります。

 ①正しく教えを学ぶことによって生じる智慧。
 ②正しく教えを思索することによって生じる智慧。
 ③正しく教えを瞑想・実践することによって生じる智慧。

 悟りによって、より広い見方がそなわることによって、
 感情の混乱は乗り越えられるでしょう。

 そしてその純粋な悟りの経験が反映された経験として、
 リアリティが分かるようになり、
 あなたは、輪廻という架空の存在の要塞から脱出し、ニルヴァーナの安穏に達することができるのです。

 この輪廻の世界は、その始まりから、一度も実在という状態になったことはありません。
 それはまるで鏡の中の影像のようです。

 ただ単に「何もない」という悟り、
 その段階ではまだ、そこにはさまざまな幻の存在があります。

 すべては依存関係以外のなにものでもないと悟ることで、
 あなたは速やかに、荘厳な、少しの固定もない自由な城に到達するでしょう。

 功徳の集積を通して得た智慧によって、あなたは自由になります。
 もしそこに智慧がなかったなら、あなたは、自らが積んだ功徳に束縛されるといわれています。
 治療のための薬が、逆に病の原因になってしまったかのように。
 したがって、存在の根本を理解する智慧を生起させてください。

 これらの六つのパーラミターを修行している間、
 あなたは、あなた自身が幻であると理解しつつ、それらの修行を行なってください。

 行為の主体も、行為の対象も、行為自体もすべて一つであると理解しつつ、
 功徳と智慧の集積に励むことによって、
 勝者の城という安らぎに到達するでしょう。

 このようにして、善の雲から降り注ぐ雨によって、
 衆生の中の純粋な心という豊かな作物が熟しますように。

 そして、輪廻という架空の存在の悪によって疲弊し切った衆生の心が、
 今日こそ、安らぎと幸福を見つけられますように。

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