「私が見たアドブターナンダ」より抜粋「師ラーマクリシュナとの出会い」(5)
ラトゥはシムラーにある彼の主人の家に帰ったのだが、もうこれ以上、仕事に従事するのは不可能であった。
彼は、何かを頼まれたらもちろんそれをこなしたのだが、ただそれをポーズとしてやっていた。しかし誰も、彼がそれらを全くの不本意でやっているとは気付かなかった。
しかし彼の主人のラームダッタだけはそれに気づき、心配した。
家の女主人は、彼の召使いらしくない振る舞いに少し傷ついたが、何も言わなかった。
ある日、ラームチャンドラダッタはドッキネッショルに一人で行き、ラトゥが仕事に対して全く興味をなくしてしまったことを師に知らせた。
師はこうお答えになった。
「ラームよ、それは仕方がないよ。
彼の心はここに来ることを渇望している。
どうか、またあの子をここに送っておくれよ。」
それに従って、ラームダッタは次の日に、ラトゥをドッキネッショルに送った。
師と少年の間で何が起こったのか。
われわれはそのことを、医者であるカヴィラージ・マハーシャヤから聞いた。
彼はある日、ドッキネッショルに来て、健康がすぐれないラーマクリシュナに、転地療養のために故郷のカーマールプクルに帰るようにと助言していた。
われわれは以下のことを聞いた。
シュリー・ラーマクリシュナは仰った。
「なあラトゥ、お前がここに来たいという真剣な願いは知っているよ。
だがね、そのために、主人のお勤めを疎かにするのはよくないねえ。
お前はラームから、寝るところとか、食事や衣服、それに必要なものはぜんぶもらっているじゃないか。
それなのに彼の仕事をしないなんて、その報酬に対して不誠実だよ。
いいかい、絶対に恩知らずになってはだめだよ。」
おしかりを受けて、この純真な少年は泣きじゃくり、感情で声をつまらせて、自分の無力さをさらけだしてこう言った。
「もう他の誰にも仕えません。
僕はここであなたと一緒にいたいのです。
僕はあなたにお仕えいたします。」
師はこうお答えになった。
「ここにいたい、と言うのかね? でも、ラームの仕事はどうするんだ?
ラームの家族は私のものでもあるのだよ。
どうして、その一家の中で暮らせないんだい?」
それでも、その少年はそれを理解しなかった。
おそらく、話を聞いていなかったのだろう。
眼をキラキラさせて、彼はこう言った。
「もうあそこには帰りません。ここに住みます。」
師は笑って、こう仰った。
「でも私はここからいなくなるんだよ。
(カヴィラージ・マハーシャヤを指して)彼らが私を故郷に連れていくんだとさ。」
ラトゥは、無言のままだった。
こう言われて、彼は何も言い返せなかった。
しかし、師は彼のハートに希望を植え付け、こう仰った。
「私が故郷から帰ってきたら、お前はここに来て、私と一緒に暮らすとよい。
だから、ちゃんと辛抱するのだよ。」
ラトゥは、心を希望に満たしてドッキネッショルに行ったが、傷ついた心と共にシムラーに帰った。
しかしこのとき、彼はあるたとえ話を聞いた。それは、師がドッキネッショルから離れている間、彼の心の支えとなった。
シュリー・ラーマクリシュナは、その話を別の信者に語っていたのだが、ラトゥはそれを耳にして、覚えたのだった。
「一家の務めをぜんぶ果たしなさい。しかし、神のことを思い続けなさい。
わが身内として、妻子や父母に仕えなさい。しかし、彼らは自分の所有物ではない、ということを常に知っていなさい。
女中は、金持ちの家で働いていても、故郷の自分の家と愛する家族のことを思っている。
彼女は主人のおさない子供たちの面倒を見て、『私のラーム』とか『私のハリ』と言う。
しかし、心の奥では、彼らは自分のものではない、ということを知っている。」
この話が、ラトゥの悲嘆にくれた心を幾分か慰めてくれたのだった。われわれは後に、彼の口からそのことを聞いた。
しかし、ラトゥは何か安らぎを得たのだろうか?
いや、ラトゥはずっと一人で、他人に気づかれることなく、悲嘆に苦しんでいた。
彼は、たとえシュリー・ラーマクリシュナが直接的に何か指示を与えていなかったとしても、言葉通りに、心から、念入りに、師の指示に従うように心掛けた。
深い信と敬意ともって、彼はその傷ついた心で理解したこの話の解釈に、几帳面に従ったのだった。
そして彼は常に、これらの指示に対する自分の心の反応を行動に移そうしていたから、それらは彼にとって、生き生きとしたものとなり、彼を鼓舞した。
彼は教えの真の意味を理解するのに、論理や哲学に走ることはなかった。
時間を無駄にすることなく、彼はすぐにそれらを実行に移した。
その結果として、他の方法で行うよりもより鮮やかに、教えの隠れた意味が理解できたのだった。
この少年のアプローチ方法は、現代的なやり方――つまり、まず最初に知性を働かせて、事を十分に理解し、それからそれを実行しようとする現代的な傾向とは全くの正反対なのであった。
人々は、この彼の子供の頃からの風変わりな性質に気づいた。
彼は思索よりも、実行する方を好んだ。
彼は、師に指示されたことを几帳面に実行することが、どれだけ自分の心を広げ、自分の人格を高めていたのかということに気づいていた。このメソッドの効能を完全に確信していたのだ。
後年、彼はこのように言っていた。
「君は何もしていないじゃないか。君は何もしないというのに、サードゥを悩ましている。
君はサードゥが、君のけがれを浄化し、君の欠点を取り除いてくれるとでも思っているのかい?
性向は君のものだ、君は自分の努力によってそれらを変えなければならない。
サードゥの言葉や単なるロジックがそれらを取り除いてくれると思うか?
君には信や献身があるのかい?
それらなくしては、理解が完全になることはありえない。
実践なくしては、誰も悪しき性向を取り除くことはできないのだ。」
師が故郷に帰り、ラトゥはラーム・バーブの家に戻った。
ラトゥはその日々を、どう過ごしていたのであろうか?
彼自身の言葉で、彼の心境を描写してみよう。
「僕があの辛い日々をどう過ごしていたか、君たちにはわかるかい?
僕は、悲しみにわれを忘れていた。
あの別離による心の痛みは、耐えきれないほどだった。
僕はラーム・バーブのところで暮らすことができなかったから、こっそりとドッキネッショルに行った。
それでも、そこで喜びを見出すことはできなかった。
僕は、師(シュリー・ラーマクリシュナ)の部屋に入れなかった。
すべてが、虚しく、空虚で、死んでいるように見えた。
僕は、庭やその周辺をぶらついた。
そしてガンガーの岸辺に座って、独りで泣いていた。
……どうして君が、この苦しみを理解できようか?
言っておくけど、これを理解するのは君には不可能だ。
ラーム・バーブは少し理解できた。
彼は僕をよく慰めてくれた。僕は彼から、シュリー・ラーマクリシュナのお写真をもらったんだ。」
聖者ニティヤゴーパールが、この時期のラトゥの心境について、簡潔にわれわれに語ってくださった。
「ラトゥの心境はまるで、喉が渇いて死んでしまおうとも雨の滴しか飲まないチャータカ鳥のようだった。」
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