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「大悲の心と智慧の目によって」

【本文】

 堪能で、勤勉で、常に自ら行なう者であれ。すべての行為において、決して誰にも場所を譲ってはならない。

【解説】

 この部分は面白いですね。これをどう読むかはいろいろな読み方があると思いますが、自分のなすべき功徳、あるいは日常のことも含めて、怠惰になったり、人にやってもらったりせずに、不放逸に、常になすべきことをなせ、という意味ではないでしょうかね。
 といってももちろん、頑なになるべきではないので、ケースバイケースですが、怠惰さを捨て、積極的に、なすべきことを自ら行なう者であれ、ということでしょうね。

【本文】

 布施等のパーラミターは、後のものほど優れている。他の行ないのために、優れた行ないを捨ててはならない。ただしそれが実践規律を守るための行ないの堤防となる場合を除く。

【解説】

 六つのパーラミター、すなわち布施・戒・忍辱・精進・禅定・智慧という六段階の修行は、後ろのものほど優れているということですね。
 そしてこの六つのパーラミターも含め、一般に善といわれることや、仏教の教えで善と言われること、そしてその中にも様々なタイプ、レベルの教えがあるわけですが、より劣った行ない(たとえそれが善の範疇にあっても)のために、よりすぐれた行ないを捨ててはならない、それは本末転倒だよ、ということですね。
 そしてそのあとの「実践規律を守るための行いの堤防となる場合を除く」という言葉も加味して考えると、結局、シャーンティデーヴァが言いたいのは、いかに本質的に意味のある修行をするか、いかに善や修行といった観念を使いこなすか、ということを、何度も何度も、優しく説いているような気がしますね。
 つまり、教えや修行を示す言葉も観念なので、その固定的な概念にとらわれすぎてしまうと、逆により悪が増大したり、善が進まなかったりということがあります。しかし教えという観念は必要は必要なのです。あまりに「教えも観念だ」という観念にとらわれてしまうと、また別の失敗が起こります。
 だから「観念を使いこなす」ということが必要でしょうね。
 たとえば、「赤信号は渡ってはいけない」という観念を持っていた人がいます。この人が、重病人をおぶって、病院に運ぼうとしているとき、一刻を争う事態とき、信号が赤だったとします。しかも車が全く通っていなかったとします。ここであなたは、信号が変わるのを待っているでしょうか? 当然、何が大事なのかを理解できているならば、車が来ないのを確認しつつ、ここで赤信号を渡って、病人を病院へ連れて行くでしょう。
 しかし逆に、普段から、車がビュンビュン通っていて、しかも別に病人を連れているときではないときも、「信号は観念だから」と言って信号無視をしまくる人がいたとしたら、この人はそのうち事故にあってしまうかもしれません。
 だから観念は必要なのです。しかしその観念がどういう意味を持っていて、どういうときには捨ててもいいのか、どういうときには決して捨ててはいけないのか、それを理解することが大事ですね。
 だから、教えという観念を忠実に守ろうとするまじめさと、その意味合いとケースバイケースにおける使い方を理解する柔軟な智慧の、両方が必要ですね。

【本文】

 かように自覚し、他人の利益のために、常に精進せよ。大悲の心があり、(智慧の目によって)衆生の利益を見る者には、禁止されたことも容認せられる。

【解説】

 さあ我々も、他人の真の利益のために、ひたすら精進しましょう。
 そして次の一文は、慎重に読み取らなければなりませんね。ここは、「大悲の心があり」という部分と、「智慧の目によって」という部分がポイントです。
 つまり、それが衆生の悟りや救いにつながるならば、一般に悪とされていることでも、場合によっては許されるということですね。これは上に書いた、観念を超えた実践の話につながりますが、その場合、重要なのはまず動機です。煩悩によって悪を行なうのではなく、大いなる慈悲の心がまず確固たる動機でなければなりません。
 次に、慈悲という動機があったとしても、智慧がなかったら、良かれと思ってやったことが、実際には衆生を悟りから遠ざけたり、苦しみに突き落としてしまう場合もあります。よってここでは、今自分が何をすることが真の意味で衆生のためになるのかということを正確に見極める智慧の目が必要なのです。
 この慈悲の動機と智慧の目によって導き出された答えが、たとえ一般の善悪の観念や戒律に違反していようとも、許されるんだよということですね。しかし慈悲や智慧に欠ける場合は、そういうことをやってはいけません。その場合はあくまでも一般的な法にのっとった方法を選択すべきでしょう。

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