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「修行の基礎・戒について」(4)

◎抜け出すための苦痛

 例えばね、こういう話があります。これも前にも言ったけども、ライオンがいて、ライオンの世界で、ある一匹のライオンが、前生からの記憶により、真理に目覚めた(笑)。俺は正しく生きようと思った。まずは不殺生だと。……え? ちょっと待てと。不殺生? 獲物を捕っちゃいけないのか(笑)。でもそのライオンは、「よし、俺は真理を実践する」と言って、その日から獲物を捕るのをやめた。で、どんどんやせ細っていった。
 で、周りのライオンたちは、そのライオンを非難した。馬鹿にしたっていうか、もうお前馬鹿かと。ライオンが獲物を捕らないでどうすると(笑)。死ぬぞと(笑)。で、そのライオンは、わたしは死んでもいいから真理を実践すると言って、餌を捕らなかった。で、死んだと。死んだらそのライオンは高い世界に生まれ変わった、っていう話があります。
 で、これは何かっていうと、獲物を捕る、つまり草食動物を殺して食べるというその行為は、ライオンに認められているんです。しかし認められているっていうことは、それをやる限りはライオンなんです(笑)。つまり抜け出そうと思ったら、それをやめなきゃいけない。
 だからヤクザみたいなもんだね(笑)。抜け出そうと思ったら、やっぱり相当こう、苦痛が伴うわけだね。ヤクザを抜けようと思ったら、まあ、リンチに遭わなきゃいけないとか、いろいろなんかあるのと同じように、なんていうかな――つまりね、その世界に、その魂というか、その意識がはまっているわけです。その世界っていうかな、システムっていうか、そのシステム、あるいは意識の中に、意識がはまっているから、そこから抜け出すっていうのは並大抵のことではないんだね。
 これは人間である我々もそうだけれども、我々が例えば人間界から抜け出して、神の領域に一歩でも足を踏み入れようとしたら、それは並大抵のことではない。ライオンが殺生をやめて人間になるようなもので。
 だから例えばこの五戒もそうだけど、五戒って、さっきから言っているけども、これは完璧にこの現代で働きながら守ろうとしたら、結構苦行になると思う。
 まず、殺生をするな。これはねえ、まあ、みんなはできるかもしれないけど、例えば条件によっては、まあ例えば家に虫が発生した場合にね、やっぱりちょっと殺さないと、やっぱりお客様にどうのとか、そういう世間体とか絡んでくるような状況の場合、殺してしまう場合があるかもしれない。
 あるいは盗むなっていうのは、現代の日本人はあんまりないかもしれないけど、盗みっていう範囲をちょっとこう大きく広げたらね、結構厳しくなるけども、商売はほとんど盗みともいえる。だって、なんていうかな、利益を上乗せしているわけでしょ。ちょっと変な言い方だけども。ほんとに対価とかだったらいいけども、ほんとのその物の価値に自分の利益を乗せて売ったりしているわけだから、厳しく考えるなら、商売はほとんど盗みだって考えることもできるわけだね(笑)。
 それから邪淫。不邪淫は二つあります。一つは完全捨断。つまり一切性的なことをしない。もっと言えば、心にも思ってはいけない。二番目は、まあ浮気をするなってやつですね。
 一切性的なことをしない。これはなかなか現代では辛いね。昔はねえ、もっと辛くなかったと思う。そんなに情報が無かったから。今はもうそういう性的情報が氾濫しているから、それはちょっと辛いと。で、心にも思うなとかっていったら、相当辛いだろうと(笑)。
 それから二番目、そうじゃなくて、いや、私は在家だから、柔らかい邪淫でいいですと。つまり浮気をするなとか、それでいいと。これもまあ普通に生きていたら大丈夫だと思うけど、でも現代ではそういう誘惑も多いから、例えば肉体的浮気、または精神的浮気に走る人も多いかもしれない。だから現代ではちょっと辛くなっている。
 嘘をつくな、になってしまうと、なかなかもう辛い。嘘といっても、本当に人を騙すような嘘じゃなくて、ちょっとこう、自分をよく見せるために大げさに言ってしまったとか、いろいろとそういう小さな嘘っていっぱいあるだろうと。あるいはさっきも言ったように、商売とかになると、かなり嘘が絡んでくると思うね。ちょっとこう、売らなきゃならないから大げさに言うとか。細かい嘘になるときりがなくなってくる。
 あるいは嘘じゃなくて言葉のカルマ全体を考えた場合、当然悪口とか、綺語とか、それから陰口とかっていうのはもう日常茶飯事化しているから、相当気をつけてないとなかなか守るのが難しい。
 で、酒に至っては、現代ではやはり、普通に商売や事業とかしていた場合、付き合いで、つまり酒の場に出ないと出世できないとか、酒の席に出ないとなかなかその、相手との商談もまとまらないとか、そういう会社とかも多いだろうと。あるいはそういう状況に置かれることも多いだろうと。だから現代ではなかなか、もちろん守ろうと思えば守れるけども、なかなか守りにくい状況にある。
 特に人間界において一番守りにくいのが邪淫だね。人間界っていうのは元々、そういう性的な興奮によって生まれてきてる世界っていわれているから、異性に対して目を向けるなとか、あるいは一切そういうことをやるなと言われてしまうと、なかなか難しくなってくる。しかし人間を超えたかったら、やめようと。
 まあ、ライオンが殺生をやめるよりは簡単だと思うけどね(笑)。人間が性的なことをやめるというのは。どうなのかなあ、その辺は(笑)。

(U)死にゃあしない。

 そう、死にゃあしないよね、別に(笑)。うん。

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