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「三人の捨身」

(55)三人の捨身

 ついにドリタラーシュトラとガンダーリーが、森へ向かう日がやってきました。
 ドリタラーシュトラは盲目のため、ガンダーリーの肩に手を乗せて歩きました。ガンダーリーも、ドリタラーシュトラへの操の証としてずっと眼を布で覆っていたため、クンティーの肩に手を乗せて、歩きました。このようにして、彼らは森へ向かったのです。途中まで、パーンドゥ兄弟も一緒についていきました。

 クンティーは歩きながら、ユディシュティラにこう話しかけました。

「息子よ。お前はサハデーヴァに話しかけるとき、いつも怒ったような言い方をするけれど、あれはやめてくださいね。
 それから、戦死したカルナのことを忘れないでおくれ。彼は私が最初に産んだ子、あなたたちの兄なのに、それを隠していて、本当に悪かったと思っています。
 ドラウパディーのことは大事にしてあげてね。そして弟たちを悲しませるようなことは、決してしないでね。
 今言った事を、いつも心に留めておいてくださいね。私の息子よ。これからは、家族の責任はあなた一人で負わねばならないのですから。」

 ユディシュティラは、母クンティーは当然、自分たちと同じように、ドリタラーシュトラとガンダーリーを森に送りに来ただけだと思っていたので、母のこの言葉を聴いて、どきりとしました。そしてしばらく沈黙していましたが、やがて気を取り直してこう言いました。

「駄目ですよ、母上! あなたはわたしたち兄弟を祝福して戦場に送り出してくださった。今になって私たちを見捨てて森へいらっしゃるなんて、とんでもないことです。」

 しかしクンティーは、ドリタラーシュトラとガンダーリーと共に森に隠退することを、すでに固く心に決めていたのでした。ユディシュティラの懇願にも揺るぐことなく、クンティーは言いました。

「わたしは、今どこかにいる主人と、早く一緒になりたいのです。森で苦行すれば、じきにあの人のもとへと行けます。騒がずにお戻りなさい。町へお帰りなさい。ダルマを固く守って、元気で暮らしてくださいね。」

 こうしてクンティーは、息子たちに別れを告げ、ドリタラーシュトラたちと共に、森へ入って行きました。ユディシュティラは呆然として、無言で立ち尽くしていました。クンティーは遠ざかりながら、時々息子たちを振り返りました。こうして三人の老人は、森へと消えていったのでした。

 ドリタラーシュトラ、ガンダーリー、クンティー、そしてドリタラーシュトラの忠実な部下であるサンジャヤの四人は、森で苦行生活に入りました。そうして三年が過ぎたある日、森が火事になりました。強風が吹いて、一面が火の海となりました。
 ドリタラーシュトラは、サンジャヤに言いました。
「この火は、わたしたちを飲み込んでしまうよ。お前は早く逃げなさい。」

 こうしてサンジャヤを逃がすと、偉大な盲目の王ドリタラーシュトラと、生涯夫に操を尽くし自らの目を覆い続けたガンダーリーと、パーンドゥ兄弟の偉大な母クンティーの三人は、東を向いて大地にヨーガの座法を組み、森の炎に身をゆだね、今生の肉体を捨てたのでした。

 その後、サンジャヤはヒマラヤに入り、出家修行者として余生を送りました。

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