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「ヴィヴェーカーナンダ」(31)

 1898年6月2日、ヴィヴェーカーナンダの信者であり片腕として様々な尽力をしてくれたグッドウィン氏が亡くなりました。その報告を受けたヴィヴェーカーナンダは、深い悲しみに沈みました。

 そして6月11日、ヴィヴェーカーナンダは、西洋人の弟子たちを連れて、カシミール旅行に出発しました。
 この旅は、弟子たちにとって忘れ難い体験となりました。旅行中、ヴィヴェーカーナンダは身も心も弟子たちに注ぎ込みました。そして何日もの間、弟子たちに、偉大な放棄の神であるシヴァ神についての伝説を語りました。
 またある日はヴィヴェーカーナンダは、チンギス・ハーン、ナポレオン、そしてアレキサンダー大王について語り、この三人の偉大なる王は、同じ一つの魂である、と言いました。
 また同様に、同じ一つの魂が、クリシュナ、ブッダ、キリストなどになって、何度も何度も、人類の宗教的統一のためにあらわれたのだ、と言いました。

 しかし同時にこの旅においてヴィヴェーカーナンダは、しばしば孤独になりたがり、一行から抜け出して、一人でさまようのでした。放浪から帰ってくるとヴィヴェーカーナンダは、次のようなことを語るのでした。

「肉体を思うことは罪である。」

「事物は良くなることはない。今あるがままに続く。自らの内に生じるその変化によって、良くなるのは我々である。」

 弟子たちは、ヴィヴェーカーナンダが以前と違い、不思議な超然的な雰囲気を携えてきているのに気づきました。ある人はこう言いました。
「今日か明日にでも、師は永遠に去ってしまうでしょう。だから、師のこの世の最後の言葉を聞いているのですよ。」

 このころからどんどん、ヴィヴェーカーナンダの心は、現世の様々なわずらわしいことから離れていきました。
 しばらく後のことですが、ニヴェーディタ-がほんの些細な世間的な忠告をしたとき、ヴィヴェーカーナンダは声を荒げて叫びました。
「計画! 計画だって! それだから、あなた方西洋の人には、決して宗教を生み出すことができないのです! あなた方の誰かが宗教を生み出したというならば、それは計画を持たないほんの二、三のカトリックの聖者たちでした。宗教は、決して、決して、計画する者によって説かれはしなかった!」

  

 イスラーマーバードにおいてヴィヴェーカーナンダは、西ヒマラヤ山脈の氷河の流域、アマルナートの洞窟の中にある偉大なシヴァリンガへの巡礼をしたいと言いました。そしてニヴェーディターにも一緒に来るように言いました。
 一行は厳しい危険な道を通って、八月二日、洞窟にたどり着きました。
 洞窟の奥の一番暗い壁面に、全身が氷でできたシヴァリンガが立っていました。
 ヴィヴェーカーナンダの体は、感動で震えだしました。ヴィヴェーカーナンダはシヴァリンガの前に身を投げ出すと、まさにシヴァ神そのもののヴィジョンを目の当たりにしました。しかしヴィヴェーカーナンダはその体験の詳細について、詳しくは何も語りませんでした。
 誰にも語られることがなかったその驚くべき体験は、ヴィヴェーカーナンダの神経を打ち砕きました。洞窟から出たとき、ヴィヴェーカーナンダの左目には血のかたまりがあり、心臓は激しく高鳴っていました。その後の数日間、ヴィヴェーカーナンダは、シヴァ神以外のことは何も語りませんでした。

「その像は神そのものであった。そこでは、ただ礼拝するばかりであった。私はこれほど美しく、これほど勇気を与えてくれるものを、今まで見たことはありません。」

つづく

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