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「ヴィヴェーカーナンダ」(2)

 青年になったナレーンドラは、神を求める思いに燃え、新進の宗教組織であるブラーフモー・サマージに入りました。しばらくの間はそこでの祈りや歌がナレーンドラの心を掻き立てましたが、科学的な眼を持つナレーンドラは、これらが真の宗教体験を与えてくれるものではないときづき、実際に神を見た人にこそ、ぜひ教えを求めなければならないと感じました。
 その切望は抑えがたくなり、ある日、ブラーフモー・サマージーの高徳な指導者であったデベーンドラナートのもとに行き、無遠慮にこう尋ねました。
「師よ。あなたは神を見たことがありますか?」

 デベーンドラナートは当惑しながら、
「ねえ君、君はヨーガ行者の眼を持っているね。瞑想しなさい。」
と言って、話をそらしました。

 ナレーンドラは失望し、この師は自分の精神的苦悩を取り除いてくれる人ではないと思いました。
 引き続きナレーンドラは、他の宗教的指導者たちを訪ねて同様の問いかけをしましたが、皆、ナレーンドラを失望させる答えしかできませんでした。

 そのころナレーンドラは、カルカッタから北に少し離れたドッキネッショルのカーリー寺院に住む、ラーマクリシュナという聖者のことを耳にするようになりました。

 まずハスティ教授という人が、講義の中で宗教的恍惚について語ったときのことでした。教授はこう言ったのでした。
「宗教的エクスタシーとは、清浄さと精神統一の結果である。この種の恍惚体験は、特に現代においてはまれな現象である。私はその祝福された状態を体得している唯一の人を知っております。それはドッキネッショルにいるラーマクリシュナという方です。」

 また、ナレーンドラの親戚であり、ラーマクリシュナの信者であったラーマチャンドラも、ナレーンドラにラーマクリシュナのすばらしさを語りました。
「君が本当に精神的なものを深めたいなら、ドッキネッショルのラーマクリシュナを訪ねなさい。」

 ナレーンドラの家の隣に住むスレーンドラは、あるとき、ラーマクリシュナのもとを訪ね、初対面からラーマクリシュナに強くひかれました。短期間で非常に親しくなり、ラーマクリシュナを自宅に招いて祭礼を催すようになりました。
 ある日、祭礼で信仰歌を歌う専門の歌手が見つからなかったスレーンドラは、隣に住むナレーンドラを招待しました。ナレーンドラは多芸多才で、歌においても優れていると評判だったからです。
 こうして偶然にも、ナレーンドラは初めて、噂に聞くラーマクリシュナにお会いしたのでした。1881年11月のことでした。このときナレーンドラは18歳で、カルカッタ大学の入学試験の準備中でした。

 ラーマクリシュナはナレーンドラを一目見るなり、非常に強く惹かれました。ラーマクリシュナはナレーンドラの人相を調べると、少し会話を交わし、近いうちにドッキネッショルのカーリー寺院に来るようにと言いました。ナレーンドラはそれを承諾しました。この聖者が、自分の師として自分の真理の探究を助けてくれるひとなのかどうかを見極めたかったからです。

 まもなくしてナレーンドラは、約束どおり、ドッキネッショルのカーリー寺院を訪ねました。ナレーンドラはラーマクリシュナの部屋に集まった信者たちの前で、得意の歌を披露しました。最初に歌った歌は、次のような歌でした。

 おお魂よ、もう一度われらの本当の家に帰ろう!
 地上というこの異国の地で、なぜにわれらは異邦人の身なりで、目的もなくさまようのか。
 周りの衆生と五元素は、汝にとってすべて異邦人である。
 何一つ汝に属するものはない。
 なぜに他国の人を愛して、汝は己をそんなに忘れているのか。愚かな魂よ。
 なぜに汝はそんなに己を忘れているのか。

 おお魂よ、真理の道を歩め! たゆまず上れ。
 汝の道を照らす明かりとしての愛を持って。
 道中の糧として、注意深く隠された徳を携えよ!
 二人の追いはぎのごとく、貪欲と欺瞞は、汝の富を奪おうと待ち構えているから。
 そして汝はいつもそばに、害悪から守る番人として、心の平安と自制を保ちおけ。

 聖者との交わりは、汝にとって路傍の憩いの場所となるであろう。
 そこでしばらく、汝の疲れた手足を休ませよ。
 もし汝が迷ったら、そこの番人に道を尋ねるがよい。
 道すがら、汝を怖がらせるものがあれば、そのときには大声で神の御名を呼ぶがよい。
 なぜなら、神はその道を統治者だから。
 そして死の神さえも、神の前にひれ伏すに違いないから。

 
 歌が終わると、ラーマクリシュナは突然、ナレーンドラの手を握って、部屋の北側にあるポーチに連れて行きました。すっかり驚いているナレーンドラに、ラーマクリシュナは涙を流しながら、こう言いました。
「ああ、お前は本当に来るのが遅かったね。こんなに長いこと私を待たせるなんてひどい! 私の耳は、俗物たちのつまらない話を聞いて、ほとんど麻痺してしまったよ。ああ、どんなに私は自分の思いを理解してくれる人に心を打ち明けることを求めていただろうか!
 神よ! 私はお前が、人類の不幸を取り除くためにこの世に生まれてきた古代の聖者の化身であることを知っています。」

 合理主義者のナレーンドラは、ラーマクリシュナのこの言葉を、ただのきちがいの戯言とみなしました。

 ラーマクリシュナはお菓子を持ってくると、まるで神にささげるように、自らの手でナレーンドラに食べさせました。この常軌を逸した行為に、ナレーンドラはうろたえました。そしてラーマクリシュナは半ば強引に、またここを訪ねてくることをナレーンドラに約束させたのでした。
 
 部屋に戻ると、ナレーンドラはラーマクリシュナに、例の質問をぶつけました。
「師よ。あなたは神を見たことがありますか?」

 一瞬のためらいもなく、ラーマクリシュナは即答しました。
「はい。私はここでお前を見るように、神を見ます。実にはっきりとね。
 神は見ることができるし、会話をすることもできる。
 だが、誰が神を愛しているだろうか?
 人々は自分の妻や子供や財産のためには溢れるほどの涙を流すが、誰が神を求めて涙するだろうか。
 もし人が神を求めて心から泣くなら、その人はきっと神を見ることができる。」

 ナレーンドラは、驚きました。初めて、神を見ることができるという人に会ったのです。ナレーンドラは、ラーマクリシュナが嘘をついておらず、その言葉は内なる体験の奥底からささやかれていると感じました。

 しかしナレーンドラは混乱しました。
 まるで狂人のように、お前は神の化身だなどと戯言を言い、食べ物を食べさせようとした先ほどのラーマクリシュナ。
 疑いの余地のない実感を持って「私は神を見ている」と語るラーマクリシュナ。
 そして今は子供のようにふざけて信者たちと冗談を言いあっています。
 これらの様々な言葉と振る舞いを同一人物の中で一致させることができなかったナレーンドラは混乱しましたが、とにかく初めて「私は神を見る」と心から言い切る人物に出会って心の平安を感じつつ、カルカッタへと帰っていきました。

つづく

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