「ヤヤーティの苦悩」
(6)ヤヤーティの苦悩
ヤヤーティ大王は、シュクラ師によって老人の肉体にされてしまいましたが、心はまだ愛欲にさいなまれていました。しかし自分の若さとヤヤーティの老いを交換してくれる者がいれば、それは実現される、とシュクラ師は予言していました。
ヤヤーティには、五人の息子がいました。そこでヤヤーティは息子たちを一人ずつ呼び、痛ましい口調で、次のように訴えました。
「私はお前たちの祖父であるシュクラ師の行力によって、一瞬にして老人の姿にさせられてしまった。だが、私は若いときは節制した禁欲生活を送ってきたため、まだ人生の楽しみを満喫していないのだ。したがってお前たちのうちの誰かが、私の老いの重荷を変わりに背負い、自分の持っている若さを私に与えてほしいのだ。この申し出を受けてくれた者には、私の王権を与えよう。私は精力あふれる若さで、人生を楽しみたいのだ。」
ヤヤーティ大王はまず長男にこの話を持ちかけましたが、長男はこう答えました。
「大王よ。もし私が父上の老齢を引き受けたとしたら、女や召使どもは私を嘲笑するでしょう。そんなことは私にはできません。この私よりももっとかわいい弟たちに頼んではいかがでしょうか。」
そこでヤヤーティ大王は次に次男に頼みました。次男はこう答えました。
「父よ。あなたは私に、力や美しさや智慧を壊してしまう、老齢を引き受けよとおっしゃるのですね、しかし私は、そんなことができるほど強い心は持っておりませぬ。」
そこでヤヤーティ大王は次に三男に頼みました。三男はこう答えました。
「老人は馬や象に乗ることができませんし、言葉もはっきりしなくなります。そんな情けない状態になるのは真っ平ごめんです。」
ヤヤーティ大王は、三人の息子が自分の希望を受け入れるのを断ったことに立腹し失望しましたが、次に四男に期待して言いました。
「お前が私の老齢を引き受けてくれぬか。しばらくの間だけでいいのだ。しばらくしたら、また再び若さをお前に返し、老いを私が引き受けよう。」
しかし四男も、
「父よ、老人になると、自分の身体を清潔にしておくことさえ他人の世話にならねばならず、こんな情けないことはありません。あなたを愛していますが、私には到底できそうもありません。お許しください。」
と言って、断りました。
ヤヤーティ大王は四人の息子に断られて悲しみに打ちひしがれましたが、それでも最後の望みをかけて、一番若い息子であるプルに、同様のことを頼みました。すると、プルは父親のことを哀れみ、こう答えました。
「父上、私は喜んで、私の若さをあなたに差し上げましょう。そして父上を老いの悲しみから救いましょう。どうぞご安心ください。」
この言葉を聴いて、ヤヤーティ大王は感激し、プルを抱きしめました。するとその瞬間、ヤヤーティは若返り、プルは年老いてしまいました。
その後ヤヤーティは長い間快楽の生活を送りましたが、それだけでは飽き足らず、クベーラ神の園へ赴いて、天女たちとともに何年も遊んで過ごしました。ヤヤーティは、快楽に徹底的にふけることで自分の肉欲を消そうとしていたのですが、それはかなわず、ようやく真理に気づいたヤヤーティは、プルのところへ帰ってきて、言いました。
「息子よ。肉欲の炎は、それにふけることで消し去ることなどはできぬ。それは火に油を注ぐようなものだ。私はそれについて学んでいたが、今の今まで、本当にそうだとは知らなかった。いかなる欲望の対象物も、人を満足させることはできぬ。われわれは、好き嫌い・苦楽を超越した心によってのみ、絶対安心の境地に到達できる。それがブラフマンの境地なのだ。
さあ、約束どおり、お前は若さを取り戻し、王国を立派に治めておくれ。」
こう言うと、ヤヤーティは再び老いを身につけ、若さをプルに返し、プルを王の座につけました。プルは王として正しい政治によって国を治め、偉大なる名声を博しました。ヤヤーティ自身は森に入って修行の日々を送り、やがて真の至福の境地に達したのでした。
そしてこのプルの子孫の一人がシャーンタヌ王であり、シャーンタヌ王の孫たちが、パーンドゥ一族とクル一族となり、このマハーバーラタという大いなる物語の中心的役割を果たしていくのです。