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「ブラフマーナンダ」(1)「師との出会い」

聖者の生涯「ブラフマーナンダ」(1)「師との出会い」

 1863年1月21日、カルカッタに近いシクラという村で、アーナンダ・モハン・ゴーシュとケラシュ・カミニの一人息子が生まれました。母のケラシュ・カミニがクリシュナの信者だったので、子供はラカール(クリシュナの友達の羊飼いの少年)と名付けられました。この母はラカールが5歳のときに亡くなりました。

 村の小学校を卒業すると、ラカールはカルカッタの中学校に入学しました。中学校ではラカールは運動クラブに所属し、そのリーダーとしてナレンという立派な少年がいました。このナレンこそ、後のヴィヴェーカーナンダでした。このようにしてナレンとラカールは、運命的に出会い、同い年の二人は大の仲良しとなりました。

 この当時、ケシャブ・チャンドラ・セン率いるブラフモ・サマージという宗教組織が、ベンガル地方の知的な人々の中に新たな宗教心を呼び起こしていました。ブラフモ・サマージの中心教義は「神は一つ」ということであり、伝統的なヒンドゥー教の多神教的な面を非難し、また寺院などにまつられる神像などを拝むことを拒否しました。
 ナレンとラカールもこの運動に参加し、その教義に従うことを署名しました。

 ラカールは学業にはあまり身を入れず、ただ唯一なる神への祈りと瞑想のみに没頭しました。
「どうしたら唯一なる神に達することができるのか」
 これが、彼の心を占める唯一の思いでした。

 ラカールは几帳面にブラフモ・サマージの礼拝の儀式に参加し、また自らも瞑想を行ない、日々絶え間なく祈りと瞑想をし続けました。

 しかしラカールの父は、学業をおろそかにして神への祈りや瞑想に没頭するラカールの態度を良く思わず、ラカールの心を世俗に向けるために、ラカールをヴィスウェシュワリという少女と結婚させました。

 しかしこのラカールの父の策略は、全く反対の結果を生むこととなりました。なぜなら、この新妻のヴィスウェシュワリの兄と母は、ラーマクリシュナの熱心な信者だったのです。

 ヴィスウェシュワリの兄であるマノモハンは、義理の弟となったラカールを、ラーマクリシュナに合わせたいと考えました。

 さて、こうしてラカールがラーマクリシュナを訪ねることになる少し前に、ラーマクリシュナは不思議なヴィジョンを見ていました。
 あるときラーマクリシュナは母なる神に、
「母よ。私は私の永遠の伴侶となる者が欲しいです。
 心が清らかで、深くあなたに帰依している少年を連れて来てください。」
と祈りました。

 その数日後、ラーマクリシュナは、カーリー寺院の境内のバンヤン樹の下に、一人の男の子が立っているヴィジョンを見ました。

 またその数日後、ラーマクリシュナは、母なる神が小さな男の子をラーマクリシュナの膝の上に乗せ、
「これがお前の息子です」
と言うヴィジョンを見ました。

 またその数日後、ラーマクリシュナは別のヴィジョンを見ました。それは、ガンガーの河面に美しい千枚花弁の蓮華が咲いており、その蓮華の上で、二人の男の子が躍っているというヴィジョンでした。そのうちの一人はまぎれもなくクリシュナであり、もう一人は前のヴィジョンで見たのと同じ男の子でした。この二人のダンスはたとえようもなく美しく、一つ一つの動きで美の大海の泡が飛び散るようでした。この聖なるヴィジョンに圧倒されながら、ラーマクリシュナは恍惚状態に入りました。
 まさにそのとき!――一艘の船が、マノモハンとラカールを乗せて、ドッキネッショルに到着しました。ラカールを見た瞬間、ラーマクリシュナはおどろきました。

「これは何ということだ!? あの子はまさにバンヤン樹の下に立っていた子だ。母が膝の上に置いて下さった子だ。たった今、蓮華の上でシュリー・クリシュナと踊っているのを見たばかりの少年だ。これが、私が母にお願いをした、心の清らかな伴侶なのだ。」

 ラーマクリシュナは、しばらく無言でラカールを見つめた後、マノモハンに、
「この子は素晴らしい可能性を持っているよ」
と言いました。そしてラーマクリシュナは、まるで旧友と再会したかのように、しばらくラカールと親しげに話をしました。

「名は何というのか?」

「ラカール・チャンドラ・ゴーシュです。」

 「ラカール」という名を聞くと、ラーマクリシュナは深く感動し、つぶやきました。
「ラカール! ヴリンダーヴァンの羊飼いの少年――シュリー・クリシュナの遊び相手だ!」

 そして最後にやさしい、愛に満ちた声で、
「ぜひまた遊びにおいで」
と言いました。

 ラカールは、初めてラーマクリシュナと会って、特別な喜びの感情と、愛と、そして強烈な魅力を感じました。寺院を出てからも、「ぜひまた遊びにおいで」というラーマクリシュナの優しく美しい声が、胸の中でこだまし続けていました。

 ラカールは家に帰り、学校に行きましたが、ラーマクリシュナのことしか考えられず、早くまたラーマクリシュナに会いたくてたまりませんでした。
 そして数日後、ラカールはひとりでラーマクリシュナをたずねました。ラーマクリシュナは大変喜んで、言いました。
「なぜもっと早く来なかったのか。私は待っていたのだよ。」

 ラカールは何と答えていいかわからず、ただラーマクリシュナをじっと見つめていると、また前にも感じたような、恍惚とした喜びがこみ上げてきました。

 こうしてラカールは次第に足しげくラーマクリシュナのもとへ通うようになり、時には何日もラーマクリシュナの部屋に泊まりこみました。ラーマクリシュナのもとにいる間はラカールは全く世間を忘れ、神の意識に没入するのでした。

 ラカールの父親は、さまざまな方法で、ラカールの心を世俗の生活へと引き戻そうとしました。ドッキネッショルへ行ってはならぬと厳しく命じましたが、まるで効果がないと知ると、ついに彼はラカールを家の中に閉じ込めました。ラカールは師のもとへ行きたいと強く熱望し、それを知ったラーマクリシュナは、ラカールの霊的修行の過程に横たわる障害が取り除かれるよう、熱心に母なる神に祈りました。
 
 数日後、父親が仕事に打ち込んでいる隙を見て、ラカールはついに家を抜け出し、ラーマクリシュナのもとへと走りました。その後、父親はそれに気づきましたが、ある訴訟事件のために法廷に出なければいけなかったので、数日間はどうすることもできませんでした。
 数日後、やっと暇ができると、父親はラカールを連れ帰ろうと、ドッキネッショルにやってきました。父親がやってくるのを見ると、ラカールは恐れて隠れようとしましたが、ラーマクリシュナはそれを許しませんでした。そこでラカールは師に促されて、父親に会い、愛と尊敬をこめて挨拶をしました。
 すると奇跡が起こりました。あれほど執拗に反対していた父親が、もはやラカールに帰宅を強要することなく、ただラカールを時々自分のところへよこしてくださいと、ラーマクリシュナにお願いしたのでした。

つづく

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