「ドローナ」
(11)ドローナ
☆主要登場人物
◎ドローナ・・・クル兄弟とパーンドゥ兄弟の武術の師。
◎ユディシュティラ・・・パーンドゥ兄弟の長兄。ダルマ神の子。
◎ビーシュマ・・・ガンガー女神と、クル兄弟・パーンドゥ兄弟の曽祖父であるシャーンタヌ王の子。
◎ドルパダ王・・・ドローナの幼馴染。王となって傲慢となり、友情を忘れる。
◎カルナ・・・実はパーンドゥ兄弟の母であるクンティー妃と太陽神スーリヤの子だが、自分の出生の秘密を知らず、ドゥルヨーダナに忠誠を誓う。
◎ドゥルヨーダナ・・・クル兄弟の長兄。パーンドゥ兄弟に憎しみを抱く。
◎アルジュナ・・・パーンドゥ兄弟の三男。クンティー妃とインドラ神の子。武術の達人で、ドローナのお気に入り。
ドローナは、バーラドヴァージャというブラーフマナの息子で、ヴェーダなどの聖典を学んだ後、武術修行に専念して、偉大な武術家となりました。
パンチャーラ国の王子であるドルパダは、子供時代にドローナとともに武術を学んだ親友であり、よくドローナに、
「自分が王位についたら、王国の半分をあげよう」
などと話していました。
成人したドローナはクリパの妹と結婚し、後にアシュワッターマンという息子が生まれました。
ドローナはもともと無欲で、お金や財産には無頓着でしたが、妻と息子に大変な愛着を持ってしまったため、今まで一度も欲しいと思ったことのなかった「財産」というものを、妻と息子のために手にしたくなりました。
あるときパラシュラーマ師が森に隠居するため、自分の財産をブラーフマナたちに分配しているという話を聞き、ドローナもそこへ行ってみましたが、時すでに遅く、すでにパラシュラーマ師はすべての財産を分配し終わっていました。しかしドローナにも何かを与えてあげたいと考えたパラシュラーマ師は、自分が極意を極めている武器の使い方をドローナに伝授しました。
こうして、もともと武術の達人であったドローナは、パラシュラーマ師から奥義を授けられたことにより、当時並ぶものなき武術の達人となったのでした。
一方、ドルパダは、父の死に伴って、パンチャーラ国の王の座につきました。ドローナは、子供時代に親しかったドルパダが、自分に王国の半分をあげるとさえ言っていたのを思い出し、歓迎を期待して、ドルパダ王のところへ赴きました。
しかしドルパダは、少年時代とは全く変わってしまっていました。ドローナがドルパダ王に謁見し、自分は子供時代の友人であると告げたとき、ドルパダ王は、喜ぶどころか、ドローナにあつかましさを感じました。権力と富に酔ってしまったドルパダ王は、ドローナにこう言いました。
「坊主よ、よくもわしをそなたの友人などと、親しげに呼べたものよのう。王位にあるわしと、さまよい歩くこじきであるお前との間に、友人関係などありえようか。
遠い昔に少し知り合っていたというだけで、一国を統治する王と友人であるなどと言い張るそなたは、何たる愚か者か。友人関係というものは、等しき関係の者同士にのみ成り立つもの。こじきのお前と、一国の王であるわしが、友人でありうるわけがない。」
ドローナは、このとき受けた侮辱と、子供のころの友情を裏切られたことで傷つき、傲慢なこの王をいつかこらしめてやろうと固く心に誓いました。
なかなか財産を得ることができないドローナは、次に、職を求めてハスティナープラへ行き、妻の兄であるクリパ師の家に泊まりました。
ある日のこと、都の郊外で王子たちが球技に興じているとき、試合の途中で、球と、ユディシュティラの耳輪が、井戸に落ちてしまいました。
王子たちは井戸を覗き込み、その奥にユディシュティラの耳輪が落ちているのを見つけましたが、取ることができずに困っていました。するとそこへドローナが通りかかり、笑ってこう言いました。
「王子たちよ。あなた方は武術の誉れ高いバーラタ族の末裔でございましょう。武術によって、どうして球と耳輪をお取りにならぬのでございますか? それとも、私が取って差し上げましょうか?」
ユディシュティラは笑って、冗談交じりに言いました。
「お坊さん、もしそなたが取ってくれるなら、クリパ師の家で大変なご馳走を食べれるようにしてつかわそう。」
するとドローナは、一枚の葉っぱを手にとって呪文を唱えると、葉っぱを井戸の中に投げ入れました。すると葉っぱは球に突き刺さりました。同様にして何枚もの発っぱを投げると、葉っぱは鎖のように数珠繋ぎとなり、ドローナはそれを引っ張って、球を取り出したのでした。
王子たちは驚きと喜びで夢中になり、今度は耳輪も取ってくれるように頼みました。するとドローナは今度は一本の矢を放ち、その矢は耳輪を引っ掛けると、跳ね返って戻ってきました。そうして耳輪を手にすると、ドローナは微笑んでそれをユディシュティラに渡しました。
この話を聞いたビーシュマは、この男は世間に名の知れた武術の達人であるドローナであると知り、ドローナを、クル兄弟とパーンドゥ兄弟たちの武術の師匠として迎え入れたのでした。
後にドローナは、カルナとドゥルヨーダナに対し、武術を教えた師匠である自分への恩返しとして、ドルパダ王を捕らえてつれてくるように命じました。しかしカルナとドゥルヨーダナは失敗し、任務を全うすることができませんでした。
次にドローナはアルジュナに同じ指示を出したところ、アルジュナは見事にドルパダ王の軍を打ち破り、ドルパダ王とその部下たちを捕らえて戻ってきました。
捕虜の身となったドルパダ王に対して、ドローナは言いました。
「王よ、命までは奪いませんから、ご心配なさるな。子供のころ、われわれは親友でしたが、あなたは王権におぼれて友情を忘れ、私を辱めました。いまや、私があなたの王国を征服したのですから、私が王様です。しかし私はあなたと友人関係を取り戻したいと思いますから、私のものとなった王国の半分をあなたに差し上げましょう。あなたの主張によれば、友人関係というのは対等のもの同士でのみ成り立つということですからね。これでやっとあなたと私は、対等になれたということですね。」
ドローナは、友情を裏切られて辱められた仕返しはこれで十分になされたと考え、王を自由の身にして、丁重に扱いました。
ドルパダの高慢な鼻はこれでへし折られたわけですが、だからといって心から和解したわけではなく、この出来事によってドルパダの中には、ドローナへの憎しみと復讐の思いが炎のように燃えたのでした。
そこでドルパダは、苦行をすることによって、将来ドローナを殺してくれる息子と、アルジュナの妻となるべき娘を授かるよう、熱心に祈りました。
なぜアルジュナの妻となる娘を願ったのかというと、ドローナはアルジュナを大変かわいがっていたので、自分がアルジュナの義理の父となれば、ドローナも自分には手が出せないだろうし、立場的にも自分のほうが強くなると考えたのです。
そうしてドルパダの苦行は実を結び、ドローナを殺す使命を持ったドリシュタデュムナという息子と、アルジュナと結婚する運命を持ったドラウパディーという娘が生まれたのでした。
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