「ドゥルヨーダナの策略」
(12)ドゥルヨーダナの策略
☆主要登場人物
◎ユディシュティラ・・・パーンドゥ兄弟の長男。ダルマ神の子。
◎ビーマ・・・パーンドゥ兄弟の次男。風神ヴァーユの子。非常に強い。
◎アルジュナ・・・パーンドゥ兄弟の三男。インドラ神の子。武術の達人。
◎ドリタラーシュトラ・・・クル兄弟の父。パーンドゥ兄弟の叔父。生まれつき盲目の王。
◎ドゥルヨーダナ・・・クル兄弟の長男。パーンドゥ兄弟に強い憎しみを抱く。
◎カルナ・・・実はパーンドゥ兄弟の母であるクンティー妃と太陽神スーリヤの子だが、自分の出生の秘密を知らず、ドゥルヨーダナに忠誠を誓う。
◎ヴィドラ・・・ドリタラーシュトラ王の主席顧問。マハートマ(偉大なる魂)といわれ、人々から尊敬されていた。
◎ドローナ・・・クル兄弟とパーンドゥ兄弟の武術の師。
◎クリパ・・・クル兄弟とパーンドゥ兄弟の武術の師。ドローナの義兄。
◎アシュワッターマン・・・ドローナの息子。
ビーマの強さとアルジュナの武術の見事さを見るにつけ、ドゥルヨーダナの嫉妬心と憎しみは、ますます高まっていきました。ドゥルヨーダナはことあるごとにパーンドゥ兄弟を陥れる策略を考え、カルナとシャクニが、その相談相手となっていました。
しかしヴィドラが、ドゥルヨーダナに大罪を犯させまいと、何か策略があるごとに影でそれを邪魔していたので、何とかパーンドゥ兄弟は生きながらえていました。
ドゥルヨーダナをはじめとしたクル兄弟の父、盲目の王であるドリタラーシュタラは、賢く、心優しく、甥であるパーンドゥ兄弟たちのことも愛していましたが、意志が弱く、子供たちを溺愛していたため、息子たちのためなら悪いことも良いことと考えてしまったり、ときには悪いことと知りつつ、息子たちのために間違った道をとることさえありました。
ドゥルヨーダナにとってどうしても許せなかったのは、都の人々がパーンドゥ兄弟を公然と褒め称え、ユディシュティラ以外に王となるのにふさわしい人物はいないなどと公言していたことでした。人々はよくこう言いました。
「ドリタラーシュトラ様は生まれつき盲目だったので、本来ならば決して王にはなりえなかったはず。したがって現在あの方が王国を治めているのは、本来的な姿ではない。
ビーシュマ様は王になるにふさわしいが、自分は王にはならないという誓いを立てているので、真実を守るあの方が、誓いを破って王になることはないだろう。
よって、ユディシュティラ様のみが王位を継ぐのにふさわしい方であり、あの方が王になれば、王国を正しく統治することができるだろう。」
このように、ドゥルヨーダナのことは全く蚊帳の外で、人々はユディシュティラを褒め称えていたのでした。
あるときドゥルヨーダナは父ドリタラーシュトラのところへ行き、こう言いました。
「父上、都の人々は全く他愛もない無駄口ばかりたたいております。彼らは王である父上に対して、尊敬の念を抱いておりません。彼らはまたユディシュティラがすぐ王位につくべきだなどと言っていますが、それは私たち一族に大変な災いをもたらすことになるでしょう。
かつて父上は長兄であるにかかわらず盲目であるがゆえにないがしろにされ、弟のパーンドゥが王となりました。パーンドゥ王の死によって今は父上が王となっていますが、そのあとをまたパーンドゥの息子であるユディシュティラが継ぐようなことになれば、私たち一族の立つ瀬はありますまい。このままずっとパーンドゥ家が王位を継ぎ、われわれクル一族は彼らに頼って生きなければならぬようになるならば、地獄に落ちるほうがまだましです。」
このような息子の言葉を聴いたドリタラーシュトラは、しばらく思索し、そしてこう言いました。
「息子よ。ユディシュティラは、人の道から外れるようなことはあるまい。彼はすべての人々を愛しておる。亡き父のすばらしい美徳をすべて受け継いでもいる。
民衆からの信頼も厚い。人格は高潔なので、宰相や武将たちも、みな彼の主義主張を信望するであろう。民衆は何しろパーンドゥ兄弟を偶像化し、心酔してしまっておるからな。だからわしらが彼らに敵対しても、勝ち目はあるまい。もしわれらが不正の手段を使おうとするならば、民衆は反乱に立ち上がり、わしらを殺すか追放するかしてしまうであろう。恥の上塗りをするばかりじゃ。」
これに対してドゥルヨーダナは答えました。
「父上のそのような恐れに、根拠はありませぬ。
ビーシュマは、最悪でも中立の立場を取るでありましょう。
アシュワッターマンは私に忠誠を誓っております。これは、彼の父であるドローナと、叔父であるクリパも、われわれの側につかざるを得ないことを意味します。
ヴィドラは、賢者とはいえ力がありませんから、どんな場合にも、われわれにたてつくことはできますまい。」
こうして自分たちの優位性を主張したドゥルヨーダナは、さらに父に言いました。
「父よ。パーンドゥ一家を、ヴァーラナーヴァタの地に追放してしまってください。そしてわれわれ一族の力を強化しましょう。」
ドリタラーシュタラ王は息子のこの提案に難色を示しましたが、その後、何人かの家臣たちが説得されてドゥルヨーダナの側につき、この件に関して王に勧めるようになりました。
しばらく後、ドゥルヨーダナは再びドリタラーシュトラ王に、このように言いました。
「私はすでに金や名誉を使って、王国の多くの大臣や政治家たちを買収することに成功しました。もしパーンドゥ一家を追放することができたなら、家臣たちはみな、われわれの側につくでしょう。そして都の人々も、私たちの側につくでしょう。そうして彼らの側につく者など、一人もいなくなってしまうでしょう。そのようにして彼らの力が弱まってから、また彼らを国に戻せばいいのではないでしょうか。」
このような、ありえそうもないような希望的観測を何度も何度も聞かされ、わが子への愛情もあって、ドリタラーシュトラの心は揺らぎ、ついにこの計画を了承してしまいました。
あとはどのようにパーンドゥ一家をヴァーラナーヴァタに追放するかでした。ドゥルヨーダナに買収された家来たちは、パーンドゥ一家にわざと聞こえるように、繰り返し、ヴァーラナーヴァタのすばらしさをたたえました。人を疑うことを知らないパーンドゥ一家の人々は、簡単にだまされ、ヴァーラナーヴァタに行きたいと思うようになりました。
また、息子かわいさで策略に加担することになったドリタラーシュトラ王自身が、
「ヴァーラナーヴァタの地ではシヴァ神のための大祭があり、その地の人々が、パーンドゥ一家がやってくることを願っている。ぜひ行ってみるといいと思う」
と彼らに勧めたので、すっかりだまされてしまい、パーンドゥ一家はしばらくヴァーラナーヴァタへと行くことになったのでした。
こうしてあっさりとパーンドゥ家はヴァーラナーヴァタの地へ行くことになったのですが、策略はこれだけではありませんでした。ドゥリタラーシュトラは事前にヴァーラナーヴァタの地に、パーンドゥ一家のための家を造営させていたのですが、その家はわざと非常に燃えやすい材質で作られていたのでした。しばらくパーンドゥ一家をその家で歓待し、その家を気に入らせ、その家に彼らが住み着いた後に、家に火をつけて、事故に見せかけて彼らを焼き殺してしまおうという計画があったのでした。