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解説「王のための四十のドーハー」第二回(4)

(M)マハームドラーで到達する境地と、お釈迦様の時代の弟子たちの、いったんニルヴァーナに入って、けがれが残ってるからまた戻ってきていろいろ経験するっていうのがあったと思うんですけど、それはイコールっていうか、境地としては同じものなんですか?

 それは、なんていうかな、そうですね、例えで言うとね、行ったところは同じと。しかし理解度は違ったかもしれない。例えば、そうだな、例えばこの――仮の話としてね――このマンションのこの部屋がニルヴァーナだとするよ。ね。で、M君がニルヴァーナであるこの部屋に来ましたと。しかしM君は、目が見えない、耳が聞こえない、鼻は効く(笑)。あと味覚もある。まあ触覚もあると。で、M君がここに来て、来たんだけど見えないんです。音も聞こえない。でもなんか供物が出てきて(笑)、「ああ、おいしいな」と(笑)。「ニルヴァーナとはおいしい」と。まあ、これ例えだけどね。で、もうちょっと悟りが進んでる人が来ましたと。彼は、例えば耳が聞こえる。それによって例えば、ここでわたしが勉強会で言ってる声が聞こえる。あるいは、ある人は目が見えます。それによってこの部屋の中も見える。で、さらにある人は、とても、なんていうかな、分析力がある。そうするとその人は、例えばこの部屋のいろんな細かいところまで分析する。例えば「ああ、この鏡はこういう木が使われてて」とか。「ここの照明は何ルクスの明るさ」とかね、いろいろこう、細かいところにこう目が行く。で、全体像を非常に微細に知る。だから同じ心の本性に達しましたといっても、やっぱりそういう違いはあるんだね。
 もちろん、もともと心の本性まで行ってない場合もある。つまり近くまで行ってる――完全に心の本性まで行ってしまえばそれは同じだけども、そうじゃない、まあ例えばだけど、心の本性の光が反映してる世界に行ってるだけなのかもしれない。あるいは心の本性に完全に到達してるのかもしれない。それはまあ、いろんな違いがあると思うね。
 で、究極的な言い方をすれば、途中段階における程度の違いはどうでもいいとも言える。つまり最終的な状態、この最終的な状態を、どの人も目指さなきゃいけない。で、これが、ヒンドゥー教的に言うと、至高者と完全に合一した状態。で、仏教的に言うと――まあ密教的に言うとね、よくヴァジュラダラの境地とかいうんだけど、完全な仏陀――仏陀の中の仏陀、最高の仏陀と合一した状態。
 あるいはまた別の大乗仏教的言い方をすると、よく勉強会でも出てくるけど、無住処涅槃とかいうんだけど。つまり完全に、完全な智慧によって輪廻を跡形もなく消すと。しかし慈悲も完全だから、ニルヴァーナにもいられないと。このニルヴァーナでも輪廻でもない境地ってあるんだね。これはつまり、智慧が完全になって、で、慈悲も完全になった状態。完全になったっていうか、完全な慈悲と完全な智慧が目覚めた状態。これがまあ言ってみれば、完璧な状態なんだね。
 でも過去に例えばマハームドラーを達成したとか成就したっていわれてる人が、みんなそこに行ってたとは思えない。ゾクチェンもそうだけどね。つまり心の本性に到達しちゃえばそれは一つの成就なんだね。で、さっきも言ったように、じゃあどの程度それを成就してるんですかっていうのは、これは一般的にはあまり言わないんです。言わないっていうか、そういう表現はされないんだけど、つまり、あまり差があるっていう言い方しないんだけど、わたしは当然あると思うね。ある人は小指一本触れてるだけかもしれないんです。これはこれで素晴らしい。ある人は完全に頭突っ込んでる。ある人はさっきも言ったように全身突っ込んだけど、ただあまり認識ができてないのかもしれない。
 だからそれは、質問に戻るとね、そのチベットとかでいうマハームドラーの悟りとお釈迦様の弟子たちの悟りが同じなのかどうかっていうのは、それは、人による(笑)。だからお釈迦様の弟子で全部ひっくるめることもできないと思うね。
 チベットとか大乗仏教の人は結構ひっくるめるんです。つまりお釈迦様の一番弟子であるサーリプッタでさえ、ちょっと低く見るんだね。「あれはちょっと小乗的な悟りだった」っていう感じで言うんだね。わたしはでも、個人的にはだけどね、もちろんかなり昔の人だから、全くそれは想像とかフィーリングで言うしかないんだけど、わたしはやっぱりお釈迦様の高弟、サーリプッタとかモッガッラーナとか、あるいはアヌルッダとか、女性でいうとケーマーとか、ああいう大聖者方っていうのは、やっぱり菩薩の道っていうか――単純にね、一時的にニルヴァーナに入って終わりじゃなくて、偉大な覚醒をしてた人たちじゃないかなって思うね。
 まとめると、「人による」ということですね(笑)。

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