クリシュナの物語の要約(1)「クリシュナの誕生」
クリシュナの物語の要約(1)
「クリシュナの誕生」
とても強くて恐ろしい、カンサという名の残虐な悪しき王が、地上に君臨していました。
ある時、カンサ王の妹のデーヴァキーが、カンサ王の大臣であるヴァスデーヴァのもとに嫁ぐことになりました。カンサ王は妹の結婚を喜び、二人に高価な贈り物をして、自らが二人を運ぶ御者の役目をかって出たほどでした。
しかしその時突然、カンサ王は、虚空からこのように呼びかける声を聞きました。
「ああ、愚か者め。お前は一体だれのために、そのようにうれしそうに御者となっているのか。お前の妹から生まれる八番目の子が、お前を殺すことを知らないのか。」
この声を聞くと、カンサ王は馬車から飛び降り、剣を抜くと、妹のデーヴァキーを殺そうとしました。しかしヴァスデーヴァは必死で王を止め、言いました。
「どうかデーヴァキーの命だけはお助け下さい。あなたを殺すのはデーヴァキーではなく、八番目の子供なのですから。デーヴァキーが生む子供は、皆、あなたに差し出しましょう。ですからどうか、デーヴァキーの命だけはお助け下さい。」
ヴァスデーヴァのこのような必死の懇願により、なんとかデーヴァキーの命は助けられましたが、その後、デーヴァキーが子供を産むたびに、カンサはその子を殺し続けました。
そしていよいよ八番目の子供の誕生が近づいた時、カンサ王はデーヴァキーとヴァスデーヴァを牢に入れ、鎖でつなぎました。
あまりの苦悩に嘆き悲しんでいる二人の前に、ある時、まばゆい光があらわれました。その光の中から、至高の主が、二人にこう語りかけました。
「お父さん、お母さん、どうかもう泣かないでください。ついに私は、あなた方を救い、善人たちの避難所になるために、地上にやってきました。悪人たちは間もなく滅ぼされ、非道なカンサも死ぬでしょう。そして地上には再び善と平安が訪れるでしょう。
私はあなた方の息子として生まれます。お父さん、私が生まれたら、あなたの善き友である、ゴークラのナンダ王のところに連れて行ってください。ナンダの妻のヤショーダーは、今、女の子を産んだところです。私をその子と交換して来てください。それは誰にも気づかれずに実行できるでしょう。何ものも、私の行く手は妨げられません。」
こうして、衆生を束縛から解放させる主であるクリシュナは、牢獄の中で生まれました。光の中の声の言葉を覚えていたヴァスデーヴァは、生まれたばかりの赤ちゃんを抱きかかえ、ゴークラへと向かおうとしましたが、手足が鎖に繋がれています。しかし突然、鎖が外れ、牢獄の門が開きました。ヴァスデーヴァは誰にも邪魔されず牢獄を出、ヤムナー河を渡り、誰にも気づかれずに、生まれたばかりのヤショーダーの娘と自分の息子を交換し、再び牢獄に帰ってきました。するとまた自然に牢獄の門が閉じ、再びヴァスデーヴァの手足は自然に鎖につながれました。
翌朝、ヤショーダーの八番目の子供の誕生を知ったカンサ王は、牢獄へとやってきました。ヴァスデーヴァは懇願して言いました。
「この子の命だけはお助け下さい。女の子は何の害ももたらしませんから。」
しかしカンサ王は全く聞き入れず、小さな赤ちゃんの両足をつかむと、宙に高く持ち上げました。そしてまさに石に思いきりたたきつけようとしたその瞬間、赤ちゃんはカンサの手をするりと抜け、カンサの頭上高くに舞い上がり、「母なる女神」の姿となり、言いました。
「カンサよ。お前は、全能の神のご意思から逃れられると思っているのか。ああ、お前を滅ぼされるお方は今、別の場所で安らかに眠っておられる。」
こう言うと、女神は消えました。カンサはただ震えおののくばかりでした。
一方ゴークラの地では、すべての人々が、愛する王ナンダに男の子が生まれたことを知り、大変喜んでいました。女王ヤショーダーも、神の力によって、子供の交換のことには全く気付かずに、息子の愛らしい笑顔を、歓喜のまなざしでじっと見つめていました。