ナーグ・マハーシャヤ(3)
ナーグはこうして父親の希望通りに再婚しました。これによって、ナーグが長年抱いていた、「家庭生活のわずらわしさを離れ、生涯を精神的な修行に捧げたい」という願いは消え、これからは家庭のために稼がなければならないという思いが、彼の心に浮かびました。しかしナーグはどうしても人の下で働くことができない姓格だったので、医者という職業を選んだのでした。結婚式の後、妻はまだ幼かったので故郷に置いたまま、ナーグは父親とともに再びカルカッタに帰り、すぐに開業しました。
ナーグは患者から治療代を受け取っていはいましたが、自ら要求することはありませんでした。そして貧しい人々には無料で薬を与えるだけではなく、ふさわしい食事をとるようにと、いくばくかのお金も渡すのでした。ときには自分の飢えを顧みず、腹をすかせた乞食に自分の食事を差し出しました。
これらのナーグの行為は、常識的な人間だった父親の目にはとても奇妙に映り、息子の将来性はないように思えました。
ナーグの患者は、増え続けました。もしナーグが世間なれしていたなら、多くの富を得たでしょうが、ナーグは自ら治療代を請求することはせず、ただ深い喜びから差し出されたものを受け取るだけでした。
狡猾な人々は、そんなナーグをだましたり利用したりしました。ある人々はお金があるのに治療費を払わず、またある人々はナーグからお金を借りて、決して返そうとはしませんでした。
この件に関して、ナーグの親友のスレーシュはこう言いました。
「ナーグが回診から戻るころになると、お金を借りようと家の前で待ち構えている人々の姿をしばしば見かけたものだ。彼は、頼まれたときはいつでも、決して嫌と言わなかった。彼の稼ぎのすべてが、貸付金と慈善に消えたのは、このためである。だから、幾日も自分の食べるものさえないようなことも珍しくなかった。彼は、少量のふくらし米だけを自分の夕食としなければならなかった。」
またナーグは、自分のためには全くお金を取っておくことはなく、余った分はすべて父親に差し出していました。ナーグは常々こう語っていました。
「真に必要なものはすべて神がお与えくださる、ということは真実です。それについて心配しても何の利益もありません。神への完全な自己放棄が幸福をもたらすのです。利己主義に基づいて私たちが企てることは、どれ一つとして思い通りの結果にはならないものです。これは私の個人的な経験です。」
1880年、成長したナーグの妻は、夫と暮らすためにカルカッタにやってきました。彼女はナーグの父に献身的に尽くしましたが、ナーグ自身は、膨大な仕事を抱えた上に、わずかな自由時間も瞑想と勉強に費やされていたので、妻の相手をする時間はありませんでした。
あるときナーグと妻は、一家のグルであるカイラーシュ・チャンドラ・バッターチャーリヤからイニシエーションを受け、マントラを授けられました。その後、ナーグの宗教的情熱はいっそう増大し、一日の大部分を、修行と瞑想に費やすようになっていきました。仕事はおろそかになり、収入も減少していきました。ナーグの父親は、こんな夫に嫁いでしまった若き妻の行く末を心配しましたが、ナーグは妻にこう言いました。
「肉体レベルでの関係は永続しない。心のすべてを捧げて神を愛することができた者こそが、祝福されるのである。一度肉体に結び付けられたなら、何度生まれ変わっても、それを終わらせることはできない。だから、この骨と肉からできた卑しむべき檻に執着を抱いてはいけないよ。母なる神の御足の下に保護を求め、そして彼女を、ただ彼女だけを思いなさい。そうしてこそ、あなたの生活は、今も、そしてこれからも高められるであろう。」
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