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解説「ミラレーパの十万歌」第三回(3)

◎四大元素のコントロール

 彼は小麦粉、米、一切れの肉、そしてバターを持って、滞在する予定の「悪魔を征服する大きな洞窟」へと一人向かいました。
 六人の弟子たちは、帰る途中に、山の向こう側で恐ろしい嵐に遭遇しました。嵐は非常に激しく、ほとんど道が見えないほどでした。彼らは必死で戦い、やっとのことで、寝静まった村にたどり着きました。
 雪は18昼夜降り続き、ティンとニャノンの間の交通は、六ヶ月間途絶えました。
 ミラレーパの弟子たちは皆、
「グルはこの嵐で死んだに違いない」
と思い、彼を偲んで葬儀を行いました。

 サガの月(3月~4月)に、弟子たちは、斧やその他の道具を持って、ジェツンの死体を捜しに行きました。
 目的地の間近で、彼らは長めの休息をとりました。遠くでは、雪ヒョウが大きな岩の上にのぼり、体を伸ばしてあくびをしていました。彼らはそれをずっと見ていましたが、やがてヒョウは消えました。
 彼らは、「このヒョウがジェツンを殺して食べたので、もう死体は見つけられないだろう」と思い込み、そしてつぶやきました。「まだ、服や頭髪などは残っているだろうか」。
 このように思うと悲しくなって、彼らは涙を流しました。

 やがて彼らは、ヒョウの通った跡のわきに、人間の足跡が多くあるのに気付きました。のちに、このヒョウのヴィジョンのあらわれた小道は、「虎とヒョウの道」として知られるようになりました。
 彼らは大変不思議がり、「これは神か悪霊の魔法だろうか」と思いました。彼らがいぶかしげに「悪魔を征服する洞窟」に近づくと、ミラレーパの歌声が聞こえました。

 「ジェツンが死ななかったのは、通りがかりのハンターが食物を布施したか、または残されていた獲物を手に入れたからだろうか」と、彼らは不思議がりました。
 洞窟につくと、ミラレーパは彼らをたしなめました。
「ずいぶんと遅いではありませんか。もうかなり前に山の反対側についていたのに、なぜこんなに時間がかかったのですか。とっくに食事の準備もできています。もう冷たくなっているに違いありません。さあ、早く入りなさい。」
 弟子たちは大変喜び、声をあげて小躍りしました。そして急いでジェツンの前に駆け寄り、頭を下げました。

 ミラレーパは言いました。
「このことを論ずるよりも、まずは食べましょう。」
 しかし、彼らは礼拝し、あいさつし、健康状態を尋ねました。洞窟の中を見渡すと、以前供養した小麦粉が、まだ残っていました。皿の上には、大麦とご飯と肉が、きちんと用意されていました。ドゥンバ・シャジャグナは、驚いて言いました。
「確かに今は夕食の時間ですが、まるで師は、私たちが来るのを知っておられたようです。」

「わたしは岩の上に座って、あなた方が皆、道の向こう側で休んでいるのを見ていましたよ。」

「わたしたちはそこにヒョウがいるのを見ましたが、師には気づきませんでした。いったいどこにいらっしゃったのですか?」

「そのヒョウがわたしです。」
 ミラレーパは答えました。
「プラーナと心を完全に調御したヨーギーは、四つのエレメントの本質を、意のままにコントロールし、どのような姿にも変身することができます。
 あなた方は皆、有能で修行の進んだ弟子なので、わたしはこの超常的な神通力を示しました。しかし、他の誰にもこのことを語ってはいけません。」

 はい。これはびっくりだね(笑)。

(一同笑)

 「そのヒョウがわたしです」って(笑)、意外な展開だね(笑)。そのヒョウがミラレーパだったんですねと(笑)。
 はい。そして、ミラレーパがすごい大聖者って言われる一つのゆえんは、こういうところにあります。つまり、われわれの存在っていうのは、三層っていうかな、三重になっています。三重っていうのは、まずこの肉体ね、つまり物質世界の存在。それからもうちょっとその奥にある霊的な世界、つまりエネルギー的な世界っていうかな。そしてその最高に一番奥にある心の本質の世界ね。で、この三つの段階がありますと。で、悟りとか聖者っていうのは、まず最低限この最も奥の、つまり心の世界を完全に、まあ浄化したっていうかな、完全にそこに到達し、それを知り尽くした存在、これは悟った者、解脱者と言われるわけですね。
 じゃあ、それだけでもいいわけだけど、その他の部分はどうなってるんですかと。例えばある成就者は、その霊的な世界まで完全に支配してる。この場合はその人は、そうですね、霊的な能力に長け、そしてまあ、例えば瞑想の世界において自由自在であると。そしてもちろん悟りもひらいていると。で、もう一つ、この肉体面はどうなんですかと。肉体面まで完全に自由に操れる存在、これは稀なんだね。で、ミラレーパはそのいい例だったんです。つまりミラレーパは心においても完全に悟っていて、エネルギー的な世界も完全に完成していて、で、それだけじゃなくて、この物質世界も完全に、まあ、コントロールできていたっていうか。これは稀な存在なんだね。
 ただまあ仏典とかを見ると、お釈迦様とそれからその高弟たちっていうのは、そういう段階にあったみたいだね。例えばみんなも読んだことあるかもしれない――これ原始仏典ですよ。のちの大乗仏典とかはね、いろんな超能力的な話がいっぱい出てくるけど、じゃなくて原始仏典っていうのはもっと、なんていうかな、素朴な話が多いんだけど、原始仏典でもよくお釈迦様はテレポーテーションとかするんだね(笑)。例えばガンジス河がすごく広くて氾濫してて橋もないから、「じゃあ、あっち側に行こうか」って言って、「お釈迦様と弟子たちはその場から消え、対岸に姿を現わしました」とか(笑)。

(一同笑)

 普通に書いてある(笑)。で、別にそれ以上、突っ込まずに次に進んでいるっていうか(笑)。で、普通にそういうテレポーテーション、あるいは空を飛んでくとかね。あと、まあ、よく出るのが、「お釈迦様は空中に浮かんで上半身を炎に変え、下半身は水に変えました」――こういう表現もある。これはね、ちょっとリアルに言うと、人間っていうのは地・水・火・風の四つの元素でできている。エレメントでできていますと。で、このエレメントを自由に操ることができるならば、つまりパーセンテージを変えられるんです(笑)。つまり上半身火元素一〇〇%(笑)、下半身水元素一〇〇%にすれば、火と水になるんだね(笑)。で、こういうことがまあお釈迦様は可能だった。
 でね、お釈迦様の弟子の中には逆にこういう神通力がなかった人もいっぱいいるんです。これも仏典にいっぱい出てくる。つまり、悟っていますと。でも例えばいろんな神通力はない。これはさっき挙げた一、二、三のうち三番目、最後の心の世界は完全に悟りにいってたけども、霊的な力とかあるいはこの肉体的な世界においてはまだ不自由っていうか。でも別に本人がそれで満足なら全く問題ないんだね。つまり一番重要なのは心だから。つまり心さえ完全に覚醒してれば、その人は肉体が自由でなくても、霊的な力がなくても、それは聖者なんです。でもプラス、どれだけ霊的な力があるのか、で、どれだけ、そのこの現実世界まで操れるのか、それはその修行者のタイプによるんだね。
 で、まあミラレーパだけじゃなくて、マルパにしろ、あるいはそのさらに上のナーローパにしろ、こういった人たちっていうのは、この現実世界まで操れるほどの大聖者だったんだね。で、それがまあ、一番特徴的に伝えられてるのがこのミラレーパなんですね。だからここの話もそうだけど、豹に変身したりとか、自由に空を飛んだり――あるいはこういう話もある。これも面白いんだけど、ミラレーパの弟子でレーチュンパっていう人がいて――ミラレーパには二大弟子がいて、一番の弟子がガンポパっていうんだけど、このガンポパはさっきも言ったようにエリートで、ほんとにもう、非の打ちどころがないような弟子なんだね。で、つまりこのガンポパっていうのは、もうミラレーパの跡継ぎなんです。跡継ぎとして生まれてきて、で、ミラレーパはガンポパに、まあ一年ぐらいだけ自分のそばで修行させて、あとはもう送り出すんです。「おまえはこの教えを広めに行きなさい」と。
 で、二番目の弟子、これはレーチュンパっていうんだけど、このレーチュンパはちょっとね、生意気なところがある弟子なんです(笑)。ガンポパとちょっと違って傲慢で生意気で(笑)。素質はあるんだけど傲慢で生意気なところがあって、全然師匠の言うことを聞かない(笑)。もう目の前にね、その当時どこに行っても出会えないような大聖者ミラレーパが目の前にいるのに、「やっぱり仏教学ぶにはインド行かないといけないと思うんです」って言って(笑)、ミラレーパが止めてるのにインド行っちゃうんだね。で、インドに行って帰ってきたときも――インドに行っていろいろ学んできたんだけど、それはただ知識を学んできただけで、師匠のミラレーパの悟りには全く及ばないんだけど、でもまるで自分が偉大な聖者になったような気持ちで帰ってきちゃって、で、ミラレーパに対して傲慢になったんだね。で、そこでミラレーパはそのレーチュンパの鼻を折るために、まず神通力で嵐を起こしたんだね。そしたら、ヤクっていうチベットのね、まあ牛みたいな動物がいるわけだけど、そのヤクの角が落ちてて、で、角の中は空洞になってるんだけど――もちろん小さい空洞ですけどね。ミラレーパはそこに入ったって(笑)。そこで雨宿りしたと。で、レーチュンパに、「さあ、おまえも来い」と。「早く入れ」と(笑)。で、レーチュンパは入れないわけです(笑)。

(一同笑)

 そこまでの力がないから。こういうかたちで弟子の傲慢さを鎮めるとか、こういうことをよくやるんだね、ミラレーパはね。だからそれはミラレーパの一つ特徴なんだね。

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