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パトゥル・リンポチェの生涯と教え(53)

◎アゾム・ドゥクパのジレンマ

 アゾム・ドゥクパは、二十歳になるまでに、すでに偉大なラマとして広く知られていた。
 彼はパトゥル・リンポチェに会いたくて、ダチュカにあるマモ・タン渓谷にやって来た。大勢の従者と共にそこに到着すると、パトゥルが住んでいるデルカル洞窟からそう遠くないところで野営をした。
 到着した次の朝、アゾム・ドゥクパと一人の僧が、崖の斜面の中腹にあるパトゥルの洞窟に向かって歩いていった。その途中、二人は偶然、水を汲みに洞窟から降りてきたパトゥルに出くわした。
 何も言葉を交わさずとも、パトゥルは一瞬で、それがアゾム・ドゥクパだということがわかった。しかし、それは胸に秘めたまま、こう言って訪問者たちに挨拶をした。

「アゾム・ドゥクパがここに来ているということを聞いたのだが。あなた方はその一団の方々かね?」

「はい、そうです。」

 アゾム・ドゥクパは答えた。

「そうかね。それでは、ここを登って洞窟に行くとしよう。」

 パトゥルはそう言って、訪問者たちを小さな洞窟に連れて行った。

 洞窟の中で腰を降ろそうとしたとき、パトゥルは小さなヤクの毛皮の絨毯を手に取ると、「ほら、これを使いなさい!」と言って、それを投げた。
 アゾム・ドゥクパはそのヤクの毛皮の絨毯を受け取ったが、躊躇った。偉大なる師の個人的な所有物である絨毯に座るということは、非常に無礼なことであったからである。しかしパトゥルに言われたことを拒むということは、それよりもさらに無礼なことなのだった。それは、二人の間にある吉兆なる縁を断ち切ることにもなりかえない。
 アゾム・ドゥクパは、このジレンマに対する解決策を見い出した。彼は絨毯を脇に敷いて、テントの床に座り、その上に片肘をついた。そのようにして、無礼の印象を相手に与えない姿勢をとったのだった。

 ちょうどそのとき、洞窟の入口のそばを飛んでいた鳥が、すぐそばにあったイラクサの上に降りてきた。その鳥が甘美にさえずり始めると、パトゥルの心に、亡き母ドルマのために意識を転移させる儀式「ポワ」をしてくれないだろうかとアゾム・トゥクパに頼んでみようという思いが生じた。
 パトゥルの言うところによると、パトゥルの母は善い性質を持ち、心が広く、誠実な人であったそうだ。彼女は、パトゥルを最初にダルマの道に導いた人物であった。また彼女はパトゥルがトゥルクという地位によって甘やかされて駄目になることはなく、後援者たちからの布施を誤用することも絶対にないと、最初から確信していた。
 パトゥルに頼まれて、若きアゾム・ドゥクパは同意して、パトゥルの母のために儀式を執り行なったのだった。

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