クリシュナ物語の要約(12)「悪魔デーヌカの救済」
(12)悪魔デーヌカの救済
パウガンダ(6歳から10歳まで)の年齢に達したクリシュナは、もはや子牛ではなく、バララーマや仲間の子供たちとともに、大人の牛たちの世話を任されるようになりました。
あるときクリシュナは、バララーマや仲間の子供たちとともに、牛をつれて森の中に入っていきました。
その森では、ミツバチや動物や鳥たちが美しい声で鳴き、澄み切った湖の上を、蓮華の香りを含んだそよ風がやさしく吹いていました。この光景に喜んだクリシュナは、ここでリーラー(遊戯)をなそうと考えました。
兄のバララーマが歩くその一歩一歩ごとに、森の花や果実や葉などがバララーマの御足に触れるのを見ると、クリシュナはやさしく笑みを浮かべて、バララーマにこう言ったのでした。
「ああ、神々の王よ。これら森の木々たちは、あなたの御足に低く頭を下げて、花や果物を捧げているのです。
そしてあなたが歩く一歩ごとに、ああ、ミツバチは世界を浄化するあなたの栄光を歌い、あなたのもとに群がり集まるのです。ああ、罪なきお人よ。きっとこのミツバチたちは、神であるあなたが森に身を隠しても、あなたを忘れることができない、あなたの信者である聖者たちであるに違いありません。
ああ、あなたがこの森に来られるや、クジャクたちは喜んで踊りだして、小鹿たちはゴーピーのような眼であなたを出迎え、カッコーたちも美しい声でさえずり、あなたを歓迎するのです。ああ、これら森の住人達は、何と祝福されているのでしょう。
今日この大地は、なんと祝福されたのでしょう。草や葉はあなたの御足に口づけをして、山や川、そして鳥や獣は、あなたの優しい目で見つめられたのです!」
ヴリンダーヴァナの森の美しい光景に喜んだクリシュナは、ゴーヴァルダナ山近くの岸辺に牛を放牧させると、仲間の子供たちと一緒に、楽しく時を過ごしました。
クリシュナは美しい声で歌い、またクジャクを真似て踊ったりして、他の子供たちを喜ばせるのでした。
また、仲間の子供たちが歌ったり踊ったり、走り回ったり、相撲を取ったりして楽しんでいるのを、クリシュナとバララーマは仲良く手をつないで見守り、それを心から喜んで、拍手喝采を贈るのでした。
さてある時、クリシュナとバララーマの親友であるシュリーダーマーは、スバラやストーカ・クリシュナなどの仲間とともに、クリシュナとバララーマにこのように話しかけました。
「ああ、力あふれるバララーマ。そして人々の喜びなる、悪い者をやっつけるクリシュナ。
ここから遠くないところに、パルミラヤシの樹が生い茂った、とても大きな森があるんだ。そこにはたくさんの果物があるんだけど、悪魔デーヌカがそれを守っているんだ。
そいつはロバの姿をしたとても強い悪魔で、そいつの周りを、そいつと同じくらい強いロバたちが取り囲んでいるんだ。
その悪魔は人間の肉を食べるので、怖がって誰もそこへ近づかないばかりか、鳥や牛さえもそこを避けようとするくらいなんだ。
甘い香りがするその森の果物を、僕たちはまだ食べたことがなくて、食べたくて仕方がないんだ。僕たちと一緒にあそこまで出かけて行こうよ!」
このような友人たちの望みを聞くと、クリシュナとバララーマは心から笑い、愛する仲間たちの願いをかなえるために、彼らとともにその森へと出かけて行ったのでした。
森へ入ると、バララーマは、ヤシの木を手で激しく揺さぶり、果物を次々と落としていきました。
その音を聞くと、ロバの姿をした悪魔デーヌカは激しく憤慨し、バララーマめがけて突進してきました。そして両足でバララーマの胸を蹴りあげると、不快な鳴き声を上げながら、あちこちと走り回りました。
しかしバララーマは、やすやすとその悪魔の足を片手で捕まえると、思いきり振りまわして、パルミヤヤシの樹めがけて投げつけました。すると激しく振り回される間に、その悪魔の魂は肉体を抜けだして、悪魔は死んでしまいました。
デーヌカが殺されたのを見て、その親族の悪魔のロバたちは激しく憤慨し、クリシュナとバララーマめがけて突進してきました。
しかしクリシュナとバララーマは、いとも簡単に彼らの足をとらえると、次々とヤシの樹めがけて放り投げていきました。その結果、そのあたりの大地は、悪魔の死骸と無数のヤシの実、そして倒れたヤシの樹でいっぱいになり、まるでさまざまな色の雲が散らばった大空のように、まことに美しく見えたのでした。
クリシュナとバララーマがなしたこの偉業に、神々は大いに喜び、空から花の雨を振りまき、天の楽器を演奏し、賞賛の言葉をささげたのでした。
こうして今やその森には悪魔がいなくなったので、人々はそれ以降、恐れずにそこでヤシの実を食べ、牛たちも自由に草を食むようになったのでした。
クリシュナが仲間とともにヴラジャに帰ってくると、ゴーピーたちは急いでやってきて、熱心に見つめて歓迎するのでした。
ヴラジャの乙女たちは、蓮華のようなクリシュナのお顔の美しさを目で味わうことで、昼間のあいだ主から離されていたつらさを忘れたのでした。
つづく