エピソード1「小枝を集めるミラレーパの物語」
「ミラレーパの十万歌」のエピソード集
「ミラレーパの十万歌」といえば、そのメインはもちろんミラレーパの詩であり、それは読むだけでも瞑想修行になるといわれるほどのすばらしいものです。
しかしこのシリーズでは、あえてその歌の部分は省き、周辺的なエピソードの部分だけをまとめて紹介してみたいと思います。
エピソード1 「小枝を集めるミラレーパの物語」
あるときミラレーパは、洞窟の中で、マハームドラーの瞑想修行に専念していました。
ふと空腹感を感じ、何かを作ろうとしましたが、洞窟の中を見渡すと、食材はおろか、水や燃料さえも残っていませんでした。
そこでミラレーパは洞窟の外に出て、火を燃やすための小枝を集めていると、突然激しい風が吹き渡りました。
ミラレーパが服を飛ばされないように押さえると小枝が飛ばされ、小枝が飛ばされないように守ろうとすると服が飛ばされそうになりました。
しばらくしてミラレーパは、反省してこう思いました。
「私はこんなにも長くリトリートにとどまって教えを実践しているのに、いまだエゴを制していない。
エゴを克服することなく修行をしても、一体何の意味があるというのだろうか。
好きなように風に、服や枝を吹き飛ばさせよう。」
こうしてミラレーパは、風に抵抗するのをやめました。すると長い苦行で衰弱したミラレーパの体は、突風に耐えられずに飛ばされてしまい、気絶してしまいました。
意識を取り戻すと、すでに嵐はやんでおり、ふと見ると、高い木の枝に、自分の着ていた服が引っかかり、そよ風に揺れていました。それを見たミラレーパの心に、この世のすべてのものに対するむなしさが去来し、強い放棄の念に満たされました。ミラレーパは岩の上に座って、瞑想を続けました。
するとミラレーパの心に、今は離れて遠くに住んでいるグル・マルパに対する、強い思慕の念が沸き起こってきました。ミラレーパは涙を流しながら、グルに対する思慕の歌を歌いました。
すると突然、虹色の雲に乗って、グル・マルパが現われました。マルパはミラレーパに言いました。
「わが息子よ、なぜそんなに感傷に浸って、必死に私を呼ぶのか。なぜそんなにもだえ苦しむのか。
グルやイダムに対する変わらぬ信を持っていないのか。
外側の世界の粗雑な想いが邪魔をするのか。
八つの現世的な風が、洞窟の中に吹き荒れているのか。
期待と恐怖に心を奪われたのか。
お前はグルと三宝に、奉仕をしてこなかったか。
功徳を、六道輪廻の衆生に捧げてこなかったか。
悪業を浄化し功徳を増大する、慈悲の状態に達しなかったか。
何が起ころうとも我々は離れ離れになることはないということを、確信していないのか。
さあ、ダルマと衆生の利益のために、瞑想を続けなさい。」
ミラレーパは、このすばらしいグルのヴィジョンによって目覚めさせられ、洞窟へと戻りました。
ミラレーパが洞窟に戻ると、巨大な目をした五人の悪魔がそこにいました。
ミラレーパは、
「これは私の事をよく思わない、この地の神々による魔法の現われに違いない」
と思い、彼らに対する挨拶の歌を歌いました。
しかし悪魔たちは消えずに、さまざまな手段でミラレーパを脅してきました。彼らの悪意を知ったミラレーパは、憤怒尊の瞑想をして強力なマントラを唱えましたが、悪魔は去りませんでした。次にミラレーパは大いなる慈悲を持って悪魔に教えを説きましたが、それでも悪魔たちは去りませんでした。
ついにミラレーパは、こう宣言しました。
「グル・マルパの慈愛によって、私は、あらゆる存在や現象が、すべて自己の心の現われであるということを、すでに完全に悟っている。
心そのものは、透明に光り輝く空である。
これらの心の現われを物理的に追い払おうとするとは、私はなんと愚かだったのか。」
そうしてミラレーパは、自分の悟りを表わす歌を歌うと、立ち上がって、悪魔たちの方へまっすぐに歩いていきました。すると悪魔たちはうろたえて、渦巻きのように消えていきました。
この出来事によってミラレーパはまた大きな精神的進歩を得たのでした。
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