『釈迦牟尼如来』(16)
お釈迦様が教えを説き始めたころ、ラージャガハにはサンジャヤという遍歴行者が住み、250人の弟子を引き連れていました。
その弟子の中の中心的存在として、サーリプッタとモッガッラーナという人物がいました。二人は親友で、お互いに、
『もしどちらかが先にアムリタの境地に到達したら、必ず知らせあおう』
と約束していました。
あるとき、お釈迦様の最初の五人の弟子の一人であるアッサジは、托鉢のためにラージャガハの街中を歩いていました。偶然、その姿を見たサーリプッタは、アッサジの立ち居振る舞いから発されるものに感じるところがあり、こう思いました。
『実にこの世に【尊敬すべき人】または【尊敬すべき人たる道を得た人】がいるならば、この人はその一人である。』
こう思ったサーリプッタは、アッサジが食事を終えたところを見計らってアッサジに近づき、たずねました。
『友よ。あなたは誰を仰いで出家したのですか? あなたの師は誰ですか? あなたは誰の教えを奉じているのですか?』
こう問われてアッサジは答えました。
『友よ。それは、サキャ族の家から出家した偉大な修行者です。私はかの世尊を仰いで出家し、師とし、教えを奉じているのです。』
『では、あなたの師はどんな教えを説いていらっしゃるのですか?』
『友よ。私は師の下で出家してまだ日が浅く、あなたに教えを詳しく説き明かすことはできませんが、要点だけを簡略に申し上げましょう。
もろもろの事柄は原因から生じる。
真理の体現者はその原因を説きました。
また、それらの滅尽をも説かれます。
偉大なる出家修行者は、このように説かれるのです。』
この簡潔な教えを聞いただけで、サーリプッタの過去生からの宿縁が目覚め、サーリプッタは悟りを得ました。
そしてサーリプッタはアッサジに言いました。
『もしもそれだけが教えであるとしても、十分です。あなた方はすでに憂いなき境地に達せられた。その境地は、過去幾多のカルパにわたっても見られなかったものです。』
そしてサーリプッタは約束どおり、モッガッラーナのもとへと行きました。
モッガッラーナは、サーリプッタが以前と違い輝いているのを見て、言いました。
『友よ。あなたはアムリタ(不死の甘露)を得たのですか?』
『そうです、友よ。私はアムリタ(不死の甘露)を得ました。』
『友よ。どのようにしてあなたはアムリタ(不死の甘露)を得たのですか?』
そこでサーリプッタは事の顛末を話し、アッサジに聞いた教えをモッガッラーナに唱えました。
『もろもろの事柄は原因から生じる。
真理の体現者はその原因を説きました。
また、それらの滅尽をも説かれます。
偉大なる出家修行者は、このように説かれるのです。』
この簡潔な教えを聞いただけで、モッガッラーナの過去生からの宿縁が目覚め、モッガッラーナも悟りを得たのでした。
そこでモッガッラーナは、サーリプッタに言いました。
『友よ、われわれはサキャ族の聖者のもとへ行こう。彼こそがわれわれの師である。』
二人はさらに、サンジャヤの250人の弟子のもとへ行って、お釈迦様の下へ行くことを誘いました。サーリプッタとモッガッラーナは彼らに尊敬されていたので、みな一緒にお釈迦様の下へと行くことになりました。
そしてさらに二人は、サンジャヤのところへ行って、自分たちがお釈迦様の弟子となることを告げました。サンジャヤは三度止めましたが、二人は聞き入れずに、250人の弟子たちを引き連れて、お釈迦様の下へと向かいました。
お釈迦様は二人がやってくるのを遠くから見て、弟子たちに言いました。
『修行者たちよ。今ここに、二人の友がやってくる。彼らは私の弟子の双璧となり、最上の立派な二人となるだろう。』
二人はお釈迦様の下へと到着し、お釈迦様の足に頭をつけて礼拝し、こう言いました。
『尊師よ、われわれは世尊のみもとで出家しとうございます。戒をお授けください。』
お釈迦様はこう答えました。
『来たれ、修行者たちよ。法は十分によく説かれた。正しく苦しみを滅するために、梵行を行なえ。』