「千倍の苦しみに」
【本文】
「私は所得がある。私は尊敬されている。私は多くの人々に愛されている」などと考えている人間に、死が到来すれば、恐怖が発生する。
どんなものでも、心が快楽にくらまされて、それに喜びを求めるならば、それぞれのものは千倍の苦しみに変じて現われる。
ゆえに、智慧ある者は、快楽を求めてはならぬ。求めれば危難が生ずる。そして危難がおのずから現われるときは、毅然として待つべきである。
これまでに所得を得た者は多く、名声を得た者も多い。しかし、所得名声とともに、彼らがどこに去ったか、人は全く知らない。
【解説】
財産、尊敬、人々から愛されること--これらは死を迎えるとともに、苦しみの因と変わります。
また、それだけではなく、この現世の快楽を追求するならば、それらはその快楽以上の苦しみに変化してやってくるといいます。
快楽を求める心には、このようなパラドックスがあるのです。つまり智慧者が現世の快楽を捨てるのは、苦しむために捨てるのではなく、苦しみを捨てるために快楽を捨てるのです。それは魚が、釣り針を見抜くようなものです。
この部分については、あえてこれ以上解説はしないようにしましょう。皆さんでそれぞれに思索してみてください。