「ゴーラクシャ」
東インドのデーヴァパーラという名の王に、一人の息子が生まれました。
王子が12歳になったとき、母が病にかかり、危篤になりました。
「人の楽と苦しみは、善い行ないと悪い行ないから生まれます。たとえ己の命を失うことになっても、悪いことをなしてはなりません。」
母はこう遺言して亡くなりました。
その地方の民は、「他国から新しい妃を迎える必要があります」と進言し、王は妃を迎えました。
それから何日か後のこと、王は悲しみを追い払うために森に出かけていきました。そのとき女王は宮殿の塔にのぼり、見ると、そこに王子がいるのが見えました。女王は情欲を生じました。女王は、「私のところに来て」と書いた手紙を送りました。しかし王子はきっぱりと拒んだので、女王は恥ずかしくなり、
「王子は私にこのような侮辱をした。」
と思い、敵に対するよりも激しい憎悪を王子に抱き、ひそかに考えました。
「なんとしても、王子を滅ぼす手立てを見つけてやりましょう。」
従者に命じて殺させようとしましたが、従者たちは言いました。
「王子を殺すのは正当ではありません。国王の息子は、きわめてすぐれたお方です。」
従者に断られた後、女王は狂言を演じました。体中血が出るまで自ら切りつけ、それから裸でベッドに横たわりました。王は戻ってくるなり、
「何があったのだ!」
と尋ねました。女王は答えました。
「あなたの息子が、人の道に外れたことをしたのです。ですからこのようになったのです。」
王は、
「息子がお前にこのようなことをしたのならば、息子を殺そう。」
と言い、二人の死刑執行人に、こう命令しました。
「王子を森の奥に連れて行き、両手両足を切断しなさい。」
二人の死刑執行人は、
「王子を処刑するのはよろしくない。だから代わりに自分の息子を処刑して、王子を救わなくては!」
と思い、その計画を王子に打ち明けました。
「われわれには、あなたを手に掛けることなどとてもできません。ですから私の息子をあなたの身代りに処刑します。」
すると王子はこれを退けて言いました。
「そんなことをしてはいけない。私を処刑しなさい。私の母は、『たとえ己の体や命を救うためであっても、悪いことをなしてはならない』と言いました。だから父のお言葉の通りにしなさい!」
そのため二人の死刑執行人は、ある木の根のところで王子の手足を切り落とし、自分の家へ帰っていきました。
当時、その国には、アチンタという名の偉大なヨーギーがいました。彼は王子にその地でイニシエーションを与え、教えを授けました。ヨーギーは、王子の居場所から一キロほど離れたところで働いている牛飼いたちの中に行きました。
「あそこで飛んでいるハゲタカの下に、木が一本ある。そこに手足を切り落とされた男がいる。誰かその男のところに行くことができるか。」
お香売りの家系の少年が、「僕ができます。でも、僕があなたの仕事をやっている間、僕の仕事をあなたがしてくれなくちゃ。」
と言いました。
少年は、牛をヨーギーに任せて、旋回しているハゲタカを頼りに、その木のところまで行って、彼がいるのを見てから、ヨーギーのところに戻ってきました。
少年がヨーギー・アチンタに、こうこうでした、とその様子を告げると、ヨーギーは牛飼いの少年に尋ねました。
「食べ物と飲み物は何があるんだ?」
少年は答えました。
「牧夫の親方の所で寝泊まりしてるから、親方が食べ物と飲み物をたくさんくれるんだ。半分をあの男の人に持っていってあげよう。」
「いいだろう。あの者はチャウラーンギという名だ。あの男の面倒を見てやりなさい。」
少年は、木の幹の周りに木の葉で小屋を作り、食べ物を与え、汚いものを両手ですべてその傷口からぬぐいはらいました。12年の間、少年はこのようにして行ないました。
ある日のこと、牛飼いの少年が行ってみると、王子は立っていました。びっくりして、どうしてこんなことがあり得るのかと問うと、王子は答えました。
「方法にたけた聖なるグルが、私に空と明智を示してくださった。
あまたの存在を、同一性の中に観察せよ。
楽も苦悩もないことは、大いに素晴らしきかな!
真実に従って、私の手足は、また生えてきたのです。」
こう言うと、王子は空中に舞い上がり、牛飼いに向かって言いました。
「あなたに教えを授けようか。それを修行しなさい。」
牛飼いは、
「教示はいりません。私には師がいます。あなたに奉仕するようにと彼が頼んだのです。その通りに行動したのです。」
そう言うなり、くるりと向きを変えて、再び牛飼いの仲間のところへ戻っていきました。
牛飼いが牛の世話をしていると、ヨーギーのアチンタが彼のもとにやってきました。牛飼いがチャウラーンギの話を聞かせると、アチンタは喜びました。そうしてアチンタは牛飼いにイニシエーションと教示を授け、他の土地へと去っていきました。
牛飼いは瞑想を行ない、マハームドラーの成就を獲得しました。そのとき、グルがやってきて、牛飼いに言いました。
「一万の生き物たちに解脱を得させるまでは、この世を去ってはならない。」
それゆえに牛飼いは、自分のもとにやってくる愚かな者たちにもイニシエーションを与えました。するとマハーデーヴァ(シヴァ神)が、そのような牛飼いをたしなめました。
「あなたは愚かな者たちにイニシエーションを与えるべきではない。洞察力や信仰なき者は、ふさわしくない。正しく求めた者にのみ、イニシエーションを与えなさい。」
そして牛飼いは、マハーデーヴァの命令のとおりに行ないました。
彼は牛飼いだったので、どこでも「ゴーラクシャ」という名で知られました。今でもあなたのカルマが清らかならば、彼のイニシエーションを受けられるかもしれません。そのときあなたの耳には、他の人には聞くことのできない、特別な日のための太鼓の音が聞こえてくるでしょう。
師ゴーラクシャの伝記、終わり。