解説「ミラレーパの十万歌」第三回(8)
◎カギュー派発展の予言
もし、この老人の言葉を信じるなら、
この予言を聞きなさい。
実践的な派の教えは、発展し、遠くまで広まるだろう。
そして、何人かの完成者が、地上にあらわれるだろう。
ミラレーパの名声は、全世界に広まるだろう。
あなた方、弟子たちは、人々の記憶の中で、
多くの信仰を獲得するだろう。
われわれの名声と称賛は、後の世で聞かれるであろう。
健康はどうか、という質問に答えるなら、
わたし、ヨーギー・ミラレーパは、非常に良好である。
親愛なる後援者たちよ、あなた方はどうですか?
皆さん、健康で幸福ですか?
ジェツンの幸福の歌は、村人たちを歓喜させ、彼らは踊ったり歌ったりして喜びました。ミラレーパも楽しげにそれに加わりました。彼が踊った大きな岩の上には、まるで彫刻されたように、足跡や手形が残されました。その中央はくぼみ、不規則なステップのついた小さな窪地のようになりました。それ以来、この岩は「雪靴の岩」と呼ばれるようになりました。
はい。まずミラレーパが予言をするわけですが、これはまずね、「実践的な派の教え」――この当時は別にはっきりとした派とかはないんだけど、その後だんだん派が形成されていって、このマルパとかミラレーパの系統はまあ「カギュー派」と言われるわけですね。で、このカギュー派というのは別名、実践的な派と言われてたんだね。
ちょっと時間が足りなくなっちゃうんであんまり詳しくは言わないけど――大ざっぱに言いますよ。チベット仏教っていうのは四つの派があります。で、この四つは、タイプでいうと二つに別れるんだね。一つは「カギュー派」と「ニンマ派」ってやつだね。で、もう一つは「ゲルク派」とそれから「サキャ派」。で、カギューとニンマっていうのが、どちらかというと実践的な派なんです。で、ゲルク派、それからサキャ派っていうのが、どちらかというと――例えばですよ、何十巻もの経典を徹底的に暗記するとか、あと論議だね。徹底的に教えの論議をものすごくやるんだね。つまり哲学的なものとかに重点を置いてる派なんだね。で、逆にカギューとかニンマっていうのは、あまり哲学的なことは突っ込まない。「とにかく修行しよう」と。ね(笑)。「瞑想しよう」と。「とにかく悟りを早くつかもう」と。そういう派なんだね。で、このカギューとかニンマっていうのは、だから逆にゲルク派とかサキャ派とかからは、よく批判されることがある。つまり、「ああいうやり方は間違ってる」って言われることもあるわけだけど、実際は多くの成就者を出してきたのは、そのカギューとかニンマ派の方なんだね。もちろんそれぞれに長所短所はあるんだろうけど。
で、ミラレーパがいるときっていうのは、まだそういう感じで明確には派になっていない。カギュー派をしっかり作ったのはミラレーパの弟子のガンポパなんだね。ガンポパがすごく頑張って、派として確立させたんですね。つまり、マルパっていうのはまず――一番初めにチベットにカギューの流れを持ってきたのはマルパなんだけど、マルパはさっき言ったように、大家族の主みたいな感じで、自分の家に弟子たちを住まわせていたわけだけども、まあ、あんまり、自分たちの教えを系統としてしっかり整えたりとか、そういうことは別にやらなかった。つまり種を植えたような感じだね。ミラレーパを初めとして優秀な弟子たちを自分の家に住まわせて、育ててた。で、その中でも一番弟子のミラレーパがいたわけだけど、この一番弟子のミラレーパは、偉大な聖者だったけど、組織とか教えをまとめるとかにはほど遠い人だったんだね(笑)。で、その次の弟子のガンポパがもう適任者だったんだね。つまりガンポパっていうのは、さっきから言ってるように、宗教的にも大天才なんだけど、現実的能力も優れてたんだね。それからもう一つ、ガンポパはミラレーパの弟子になる前に、カダム派っていうところにいたんですね。カダム派っていう、非常に論理的に教えを学ぶところに、もともとガンポパはいたんです。で、そこをやめてミラレーパのところに来たんだね。で、ミラレーパのその実践的な教えを学んで解脱するわけだけど、でももともと頭に入ってたカダム派の教えもあるから、それによって――つまりマルパとかミラレーパはあんまり教えを体系的にまとめなかったんだけど――ミラレーパは好き勝手に歌歌ってるだけだから(笑)。「ミラレーパの教え」とかまとめたわけじゃない(笑)。でもガンポパはその師匠ミラレーパの教えと、自分がカダム派で学んできたベーシックな仏教の教えをしっかりと一つにまとめ上げて、カギュー派の体系をつくったんだね。こうしてカギュー派の流れができていった。
はい。で、ここで言ってるのは、「実践的な派の教えは、発展し、遠くまで広まるだろう。」
つまりこの時点、ミラレーパが生きてる時点では、ミラレーパっていうのは、「あ、マルパの弟子の聖者ですね」と。別に組織はまだ何もありませんっていう時代だったんだけど、でも、「われわれの派っていうのは、将来的には遠く広く広まるだろう」と。で、これは実際に成就した。カギュー派っていうのはね、一時はチベットの最大宗派だった。
ダージリンの方とかもカギュー派がいっぱいあるんだね。ね?
(F)カギュー派と、家はサキャでした。
もう結構チベットとその周辺――例えばね、ブータンっていう国あるよね。あそこの国教ってカギュー派の一派なんです。あれ面白いよね。国教がカギュー派なんだよ(笑)。国教が仏教じゃないんだよ。国教がチベット仏教のカギュー派なんだね。つまりそういう感じで広まったんです。今はまあゲルク派が一番勢力があるけども、でもカギュー派もものすごく広まりましたと。だからこれはミラレーパの予言どおりいったわけだね。で、何人かの完成者が現われるだろうと。
-
前の記事
解説「ミラレーパの十万歌」第三回(7) -
次の記事
解説「人々のためのドーハー」第二回(5)